くりふ

ゴッドファーザー・オブ・ゴアのくりふのレビュー・感想・評価

3.5
【血まみれ父ちゃん意気揚々】

ゴア映画の父、ハーシェル・ゴードン・ルイスを追ったドキュメンタリー。しかし監督がフランク・ヘネンロッターなもんだから批判視線皆無。それがいっそ清々しいですが、ちょいと内輪な仕上がりかも(笑)。

昨年のH・G・ルイス映画祭に結局、行けなかったのでDVDレンタルにて。ルイスさんの出自については知らなかったので、とても楽しく学べました。結果的に、60年代からの映画史と風俗史となってゆくところも面白いですね。

元々、広告マンなんですね。だから発想がマーケ。で、儲かることを考えて…ということでヌーディー・キューティから始まる。だから冒頭30分おっぱいばっかり(笑)。

そこでラス・メイヤーと接点あるところがまた、楽しい! 当時希少な存在だった、ピンナップを撮る女性カメラマン、バニー・イェーガーともつながりがあると知ってびっくり。

しかし猫も杓子もおっぱいばっか撮るもんだから差別化が必要になり…大手の映画会社がやらぬが観客は求めるものとは…と紆余曲折、現在に至る道がサクサクかつゴアに紹介されていきます。

ゴア第一作『血の祝祭日』ってとても好きなのですが、主演女優をボロクソに評していて爆笑しました。プレイボーイクラブでスカウトしたそうですが、プレイボーイ誌の歴史に残る演技力のなさ、だそうです。「鍵がないと動かない人形のよう」だって。

ルイスのゴア映画では、若い女性がやたら惨殺されますが、おもちゃっぽくて笑っちゃうんですよね。もちろん当時の、低予算もあっての稚拙さが大きいですが、血まみれの内臓で粘土遊びするような子供っぽさがあるんです。

また、嫌がらせのように続くスプラッタ描写は、肝試しで脅かす側にいるつもりじゃないかなーと思ったりもします。ゴアゴア作っていても、ルイス本人も暗さなど微塵もなく、本作でも堂々としています。『血の祝祭日』をホイットマンの詩と並ぶ偉業だと自賛していてスゲエと思った(笑)。

本人が抱えるミソジニーというより、女体損壊が求められたからエスカレートしたんだ、と言い切りそうな気がしますね。見たがる人がいるから作ったんだよって。

作る映画の変遷はロジャー・コーマンに近いと知りました。ゴアとおっぱいだけでなく、時事の風俗を取り入れた青春ものなんかも作っていたんですね。

コーマンと違うのは、大手スタジオがSFホラージャンルに本気で乗り込む前に、きっぱりと映画から足を洗っているところ。まあ作家性としてはワンパターンですから、そんなに作れなかったんでしょうけど。

ジョン・ウォーターズが、ルイスのゴア代表作は『血の祝祭日』から続く始めの3本だと喝破していますが、実際その通りだと思います。

ルイスのケンタ好きエピソードなども楽しい。ある爆笑事情でカーネル・サンダースが出てくるフィルムなんて、笑えて貴重だと思います。

監督のヘネンロッターは、本人の姿初めて見ましたが、ちょっとサイモン・ペグに雰囲気が似ていて、ギャグセンスありますね。そちらをもっと生かした映画つくればいいのに。もうあるのかな?

総体的にはみ易くて、よくまとまっていました。まあ、ハーシェル・ゴードン・ルイスに興味ある人しかみないでしょうが、これも貴重な映画史の一部だということは、忘れちゃいけないと思います。

<2014.3.4記>
くりふ

くりふ