MasaichiYaguchi

のぼうの城のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

のぼうの城(2012年製作の映画)
3.5
甲陽軍鑑の有名な言葉で、「人は城、人は石垣、人は堀、情けは味方、仇は敵なり」があるが、この映画の場合は、「民は城、民は石垣、民は堀」ということになるだろうか。
周りの者からは「たわけ者」とか、「でくの坊」とか言われたり、思われたりしている本作の主人公、成田長親ほど領民を愛している城代はいないのではないだろうか。
その領民達からも成田長親は、でくの坊の意味で「のぼう様」と呼ばれているが、彼らは軽蔑しているのではなく、「しょうがない人だなあ」と思いながらも、愛着を持って呼んでいる。
この至ってのほほんと、やや「バカ殿」の風情もある「のぼう」だが、変わらざるを得ない時を迎える。
天下統一目前の豊臣秀吉が、北条家征伐の一環として、彼のいる「忍城」へ、石田三成を総大将として大軍で攻め込んでくる。
周囲を湖で囲まれた「忍城」は「浮き城」の異名を持つ。
この特異な城に籠城した「のぼう」側の軍勢はたった五百、それを取り囲む豊臣軍二万人。
常識的には勝てる訳がない、風前の灯の「忍城」。
ところが、ところがである。
「一寸の虫にも五分の魂」
「窮鼠猫をかむ」
これらの譬えにあるように、「のぼう」達は、坂東武士の意地を見せる。
映画は、ほぼ原作通りに展開していく。
キャスティングも、「漆黒の魔人」の丹波、豪腕の和泉、軍略の天才・靱負等、原作のイメージを損ねない。
そして「のぼう」こと成田長親を演じる野村萬斎さん、狂言師としての「持ち味」を遺憾なく発揮するシーンが終盤にあります。
この合戦に本当に勝利したのはどちらなのかは明快に描かれます。
映画で「武と金で勝つ!」という言葉が出て来るが、本当に勝利するには「人間力」、「人を惹き付けて止まない人の器」なような気がします。