りっく

のぼうの城のりっくのレビュー・感想・評価

のぼうの城(2012年製作の映画)
3.7
「のぼう」というキャラクターは良い意味でつかみどころがない。そんな人物を狂言師である野村萬斎が、独特の台詞回しで「バカ」と「天才」の狭間で見事なバランスを取って演じている。決して偉そうにせず、自ら手も下さず、戦闘にも参加しない。だが、自然と「彼のためなら」と思わせるような魅力がある。

一方で「眼」で意志が働いているのかどうかを窺い知ることもできる。ひょっとして、彼は計画的に人身掌握しているのではないかと疑ってしまうようなミステリアスな部分もきちんと残されているのだ。百姓に慕われているエピソードをもっと厚くするべきだとは思うが、この一風変わった人物を中心に据えても、十分にエンターテインメント足り得ているところが素晴らしい。

語り口も実に手際が良い。当時の世の中の勢力図や、自陣と敵陣のキャラクター配置を序盤でサラリと描くことで、後の物語展開にすんなりと集中できる。特に開場から決戦のくだりは、全員が口では言わないが、腹の底では戦う気力に満ち満ちているのが手に取るように伝わってきて、実に爽快かつ愉快な場面だ。

あるいは、本作で唯一ストレートなカタルシスが得られる、弱者の戦法を駆使した門での戦い。「頭脳」を働かせる成宮寛貴も良いが、「気合」だけで敵陣に突っ込んでいく山口智充の武骨さと迫力が見事だ。

本作の最大の見所は「水攻め」シーンだ。
その迫力のある映像が、津波を連想させるという理由から、人間が水に飲み込まれるカットを修正したそうだ。その修正箇所が仕方のないことだが、やはり気になってしまう。つまり、人間の背後に水が迫っていたのに無事であったり、水流の速度がよく分からなかったりと色々と無理が生じてしまっている。この中盤の「水攻め」から物語自体もモタモタした印象を受ける。

ヒロインの造形も雑で、物語上もう少し上手く絡めて欲しかった。だが、そんな欠点を遥かに上回る魅力に満ちた、一筋縄ではないエンターテインメント意欲作だと思う。
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