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パフューム ある人殺しの物語のgenarowlandsのレビュー・感想・評価

3.8
長いこといちばん好きだったパトリック・ジュースキントの原作、ラストの変態性が映画でもちゃんと再現されていて満足。ネタバレしないように書きますが、同じシーンがアンゲロプロスの「アレクサンダー大王」でもあったことを思い出しました。その時に不思議で調べたら、宗教的な儀式の意味合いがありました。小説読んだときには気づかなかったことが、映像で表現されると、記憶を重ねられるんですね。

文学のとらえる匂いと映像で表す匂いだと、文学の方が匂いの表現は多様でした。そして詩的でした。映像だと、汚れた主人公の爪とか衣服とかが先に目に入り、匂いの表現より見た目のインパクト(汚さ)が大きくなりました。

また、映像ではホラーで怖かったですが、文学ではそこまで行かず、主人公ジャン=バティストが出会うさまざまな匂いは主観で表され、あくまでも主人公を善悪でとらえるものではなかったです。

原作の筋に忠実だったとはいえ、文学とは別物と考えると、ホラーとしてのおもしろさがありました。中世の汚れた下層社会と貴族や富裕層の対比は映像ならでは。また、被害者側の気持ちも表すことで観客の視点に近づいています。

最初に戻って、あれが宗教的儀式だったと考えると、ジャン=バティストは悪魔ではなく、神になるわけで、最下層の人びとに巡り巡って、貴族階級が独り占めしていた最も大切な幸せを運び、人びとに純粋な幸福を内面化させたことになります。

文学ではこのブラックでシニカルな結末の意味を読み取れず、うへぇっ、でも面白い!となりましたが、映像で観ると余韻が残りました。
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