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ビーツ、ライムズ・アンド・ライフ ア・トライブ・コールド・クエストの旅のJAmmyWAngのレビュー・感想・評価

4.5
音楽的な観点からATCQの軌跡を辿る意味でも大変面白いし、ひいては「音楽と人」という関係性から、「人と人」の繋がりという普遍的な性質が誠実に抽出されているスゲーいいヤツ。泣ける。

本作はトライブのドキュメンタリーであるからして、Q-Tipとファイフの確執が主軸に据えられるのは至極当たり前田のdo do that that thatなんだけれども、その中心的な対立構造の周縁にはまた様々な想いが循環しているワケである。

その周縁を幾つかの層に分割してみると、外側の層はトライブとの音楽的な関わりを持つアーティスト達で構成されている。トライブの音楽性を評価するピート・ロックやビースティー・ボーイズから、自身への影響を公言するコモンまで、そこには「音楽と人」という性質を強く帯びた関係性が提示されている。

またそれよりもやや内側の層には、ザ・ルーツやバスタ・ライムスを初めとして、さらにはネイティブ・タンの中核的なグループであるジャングル・ブラザーズやデ・ラ・ソウルがいるワケであって、この層におけるトライブとの深い繋がりは、「音楽と人」から「人と人」への関係性にまで幾分踏み込んでいる。
取り分けRock the Bells(Hip Hopフェス)における確執の悪化したトライブのパフォーマンスに対して、ハッキリ"It's dissapointing"とコメントするポスとトゥルーゴイも、そしてその後Q-Tipに話をしに行くメイシオも、デ・ラ・ソウルの面々の言動は音楽を通じた人と人との繋がりによって生み出されているワケである。それゆえに、その言葉は大変生々しい想いとして重く響いているのだと思う。

そして最も内側にはトライブそれ自体としての層があり、メンバーであるアリと(脱退したけど)ジェロビのトライブにおける役割が、その重要性とともに浮かび上がっている。本作において捉えられるその役割とは、個々人が純音楽的に果たす機能という性質のものではなくて、あくまでグループという共同体が有機的に活動していた事実の要因としての、そしてまた再び活動しようと足掻くための、「人と人」の繋がりにおけるそれである。

トライブはHip Hopグループであるのだから、音楽活動が継続されない限りトライブという共同体は存続し得ない。そしてそれは個々の「人と人」という結び付きを前提として成立するのだというとても当たり前で大切な事を、本作は改めて教えてくれるワケである。そもそもの話をすれば、たとえどれだけ対立しようとも、ファイフがQ-TipをHip Hopの世界に誘わなければ、トライブは生まれなかったという事でもある。

(作品に出てはいないけれども)OutKastのアンドレ3000の言葉を借りれば、Q-TipはThinking man(考える人)であり、ファイフはEveryman(フツーの人)である。二人のコントラストがトライブの魅力であり、そしてまた確執の要因であるのかもしれないけれど、本作においてはQ-Tipの天才っぷりによって、ファイフのフツーっぷりが確かに輝いているのである。Q-Tipが送ったメールの内容と、それを受け取って喜ぶファイフのやり取りが、この関係性の魅力を端的に表していてまあ泣きましたわ。Oh my god, funky diabetic.

ところで、対立構造をも含めたトライブという中心を取り巻く周縁の、最も外側の層を構成しているのは、我々リスナーなのではないかと思う。この作品は、アーティストを中心とした幾層にも及ぶ想いの循環に、我々を改めて組み込んでくれる。
悲しいことにファイフは昨年亡くなってしまったけれども、この偉大なるEverymanに、Everymanの中のEverymanであるこの私a.k.aサラリーマンも、心からR.I.P.を捧げたいと思うのであります。
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