LEONkei

最初の人間のLEONkeiのレビュー・感想・評価

最初の人間(2011年製作の映画)
3.3
早朝、時間に余裕があるときは近くの隅田川の河川敷を軽く走りったり歩いたりしているが、老若男女見知らぬ人々とすれ違い様に和やかな会釈や挨拶をされる人もいるのでこちらも優しく応じる。

「おはようございます」
「good morning」

ココロを穏やかに無になって遠くのビル群やツリーやタワーを眺め歩いていると、不思議とココロに溜まった現実の塊が夏の陽射しに晒されたソフトクリームの様にトロけ出す。

自分は一体今まで何をして来たのだろうか、何の為に生きているんだろうかと普段考えないような事が早朝の静けさの中から沸き立ってくる。


そんな自分の存在を問いたいことはあるか?

自分は何処で生まれ、何処から来て、誰と出逢い、何を触れ今に存在しているのか。

自分は何者なのか…、原点〈祖国〉を知ればそれが分かるかも知れない。

日本の地で生まれ日本で育った単一民族で占めた多くの日本人には、中々理解し難い現実が世界では当たり前の様に存在している。


ノーベル文学賞作家〝アルベール・カミュ〟『最初の人間』の未完の遺作を映画化。

フランス領アルジェリアで生まれながら成人後にフランスに住居を移し、フランス人として彼が自身のルーツを辿り彷徨う〝カミュ〟の自伝的作品。

異民族の交わる地で育った〝カミュ〟が残した手記や送られた手紙でも祖国が何処なのか迷走しているが、生まれ育った25歳までのアルジェリアなのか或は26歳から交通事故死する46歳までの20年間を過ごしたしたフランスなのか。


捕獲した野良犬を乗せるトラックの荷台に入れられた少年のシルエットは、岸壁から見えるキラキラ輝く海に反射する夕陽と重なり影絵の様に美しい。

叔父と仕事へ向かう朝靄の蒼い空、草木が微風に揺れる広大な牧草地、細く畝りくねった急傾斜の石畳みにあるアラブ人街…、アルジェの素晴らしい情景はどこか懐かしくどこか淋しい。


祖国の概念は「人間を無意味なものとするものに対する、人間共通の闘いに基づくもの」。

最初の人間とは道徳や宗教や歴史や伝統や価値観、そして祖国の概念を持たないまっさらな状態の出発地点。

アルジェリア…フランス…フランス語圏内…ヨーロッパ…と、時代の流れによって変節する祖国の概念に混迷していた〝カミュ〟が窺い知れる。

第二次世界大戦中のドイツナチスの占領を経てパリ解放から、原点回帰への渇望により母の住むアルジェリアを〈私の真の祖国〉と〝カミュ〟は綴っている。


人は一生の中で何千回・何万回と二度と会わないであろう人々と無意識にすれ違っているが、早朝のすれ違う人々とは別人の様に感じるのは悪意のない不干渉か自己顕示欲に蝕まれているのかも知れない。

それでも突き詰めれば早朝の人々も日常生活の人々も結局のところ同一人物で、歩く時間帯や場所が変われば人は変わると言うことになる。

山でも海でも木でもビルでも一番遠くに有るものをジーッと見つめ続けるだけで、自分の原点が蘇り何者か分かるキッカケくらいは掴めるかも知れない。


長々とつまらぬ愚談を吐いてしまいました、たまに早朝の散歩もいいですよと言うことです..★,
LEONkei

LEONkei