りっく

脳男のりっくのレビュー・感想・評価

脳男(2013年製作の映画)
3.6
本作は『告白』『悪の教典』に続く、東宝「ヤバイ」映画路線の1つだろう。
ただし、その「エキセントリック」な描写が非常に表面的だ。

特に二階堂ふみの怪演を無駄にするような、演出の力量不足には心底ガッカリ。
また至る所に『ダークナイト』のジョーカーから影響を受けた場面が見受けられる。
バスを爆破しに行く白塗りメイクの女性。
病院が次々と爆破されていく様子。
刑事に2人の命を選択させる場面。
「ヤバイ」ことをしてやるんだ!という気概は分かるだけに、もっとフレッシュな描写が欲しい。

さらにミステリー映画としての魅力にも乏しい。
本作は序盤で発生するバス爆破事件の犯人探しが、物語の1つの推進力となっている。
だが、観客は犯人が女2人組だと早い段階から知ることとなる。
だからこそ、いつまでも「脳男」を疑う刑事たちが無能にしか見えない。
しまいには事件の捜査を病院の医師たちにも協力させる有り様。
真犯人は誰かという謎に対しての、情報の出しかたが下手すぎるのだ。

しかし、個人的には本作を面白く観ることができた。
それは一概に「脳男」を演じた生田斗真の魅力にある。
「脳男」というキャラクター自体が、物語の最大の推進力である大きな謎を秘めた存在だ。
だからこそ、非常に特殊なキャラクターである「脳男」のキャスティングだけは失敗できない。
そして結果的に、そのキャスティングがカチッとはまったからこそ、本作は成功したのだと思う。

生田斗真という俳優の代表作となるのは間違いない。
異常なほど均整のとれた端正な顔立ち。
鍛え上げられた肉体美。
隔世したようなクールな佇まい。
それでいて弱々しい心も内に秘めているように見える。
去っていく後ろ姿や、膝を抱え込む姿が、確かに「画」になっている。
そんな彼の「無機質な美しさ」が最大限に生かされている。

ライティングと撮影も見事だ。
彼を正面ではなく、斜めや横から撮る工夫がなされている。
それにより、彼の高い鼻によって、顔の半分に陰影ができる。
それが善悪とはっきり分け隔てられない、彼の存在そのものを端的に表している。
とにかく映画としてのルックが格好いい。
「キング・クリムゾン」の曲が使用されるエンドクレジットはその極みだ。

本作は決して完璧な作品ではない。
気になる個所は多々あり、広げすぎた大風呂敷を上手く畳めていない印象を受ける。
だが、「ビジランテもの」「ダークヒーローもの」としての面白さがある。
ラストのカタルシスに安易に逃げない点にも好感が持てる。
少なくともトム・クルーズの『アウトロー』よりは、魅力に満ち満ちた硬派な作品だ。
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