りっく

ふがいない僕は空を見たのりっくのレビュー・感想・評価

ふがいない僕は空を見た(2012年製作の映画)
4.2
高校生男子の斎藤と人妻である里美が、コスプレしながら情事を重ねている。
その姿は、傍から見れば「イタイ」光景だ。
けれども、それを斎藤や里美の視点から探ると、また違った「世界」が見えてくる。
この「世界」という現実からの逃避。
あるいは、この「世界」を生きなければならない自分自身への変身願望。
「イタイ」が「痛い」に変わってくる過程がじわりと浮かび上がってくる。

しかし、「痛み」を抱えているのは2人だけではない。
団地という「世界」の中で、周囲の人々も同じように「痛み」を抱えている。
似たような建物ばかりに囲まれて暮らし、そのまま一生を終える人々。
そんな鬱屈した息苦しさの中で、人間たちの醜さや憎しみが渦巻いている。
見上げれば青空が確かに見えるのに、ここから逃れることはできない。
その閉塞感は気が滅入るほどのものだ。

本作は「性悪説」についての映画だと思う。
「腹黒い」親の腹から生まれてくる、新たな命。
だが、生まれた瞬間からこの閉鎖的な「世界」の中で、他の人間と同じ空気を吸って生きていかなければならない。
彼らがこの「世界」に手探りで向かっていくにつれ、徐々に彼らは毒されていく。
そこで生じる「痛み」から、誰も逃れることはできないのだ。

けれども、本作のラストではある種の清々しささえ感じる。
それは、斎藤と里美が「世界」との向き合いかたを分かり始めたからではないだろうか。
本作は他者を描くことで、自己を肯定する映画だ。
生きづらい世の中で、それでも誰だって生きていかなければならない。
そんな人間たちは生まれつき「悪」である。
それを認識すれば、もう少し楽に生きられるのではないか。
「ふがいない」のは、自分だけではないのだと思う。
りっく

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