Eike

ザ・ターゲット 陰謀のスプレマシーのEikeのレビュー・感想・評価

3.1
「ダークナイト」や「 世界侵略:ロサンゼルス決戦 」で知られるアーロン・エッカート主演のサスペンス・スリラー。
ヨーロッパ(ベルギー)を舞台にティーンエイジャーの娘エイミーと二人暮らしのベン・ローガンが巻き込まれた陰謀。
巨大な組織の魔の手から娘を護りつつ陰謀の真相究明と強大な敵への反撃の手段を模索する彼の姿を描いてゆきます。

本作の印象を上げるとするなら「地味」でしょうか…。
エッカート氏、演技面は手堅くソツがありませんがスターとしてのカリスマ性に物足りない点があることは否めませんし、このお話自体も今一つアピール力が足りないような…。
率直に言ってマット・デイモンの「ボーン…シリーズ」、リーアム・ニーソンの「96時間シリーズ」などのヒット作をフォローした作品と言われても仕方のない印象。
ただ、おもしろいのはこれらの作品に共通するのがみんな「元スパイ」のお話であるという点。
組織から抜けて堅気の(?)暮らしを送る主人公が陰謀に巻き込まれる中で孤立無援の状態で戦いを繰り広げる姿が描かれております。
かつてならスパイが国家の威信を賭けて命がけのミッションをこなす姿を描いてこそナンボ、がスパイ映画だったと思うのですが…
現役スパイのお話を作るのが難しい時代になったという事なんでしょうね。

さて、そんな本作、地味とは申しましたがでは詰まらないのかというとそう言う訳ではない。
ミステリアスな序盤の掴みから陰謀の全体像が見えてくる中盤、そして命がけで起死回生の駆け引きを繰り広げるクライマックスまでいづれもセオリー通りの展開。
その意味で意外性こそありませんが、安定感があってちゃんと主人公たちのドラマに集中して見られる作品になっております。
アメリカを離れ、遠ざかっていた父親との距離の取り方に悩む一人娘のエイミーを演じるリアーナ・リベラト嬢、
ベンの元同僚で現役のCIA局員アンナを演じるオルガ・キュリレンコ嬢のミステリアスな行動など各自に見せ場もあってサスペンス映画としては十分に及第点。
エッカート氏は随所で元エージェントらしく激しいアクションを披露しているだけでなく過去の自分の素性を娘に秘してきた負い目も伺わせる複雑な心情を見せております。

舞台がヨーロッパである点や主人公の肉親が足枷となる辺りは「96時間」とも共通しておりますがあれほど単純なお話ではなく、良い意味でサスペンス映画らしい要素が揃った作品となっております。
その反面、アクションシーンなどでは今風のスタイリッシュな演出がなされていない分、物足りないと感じる向きもあるかもしれません。

本作における悪役は利益のためなら多数の人命を犠牲とすることも当然とする巨大企業であり、その意味で敵のプロフィールに関しては本作の方が娯楽映画としては「座りが良い」(笑)。
「96時間」ではかなり意図的に悪役として短絡的に扱われていた東欧からの不法移民たちが本作では強大な組織に追われる主人公親子に手を貸す存在として描かれている点も興味深い。
後半にかけては都合よすぎる展開も目に付きますが、ベンが自ら爆薬を作るシークェンスをじっくり見せたり、死闘後に彼の手が内出血であざだらけになっているシーンをさりげなく挿入するなどディテールを疎かにしていない辺りの律儀さには好感が持てます。

この地味ながらもきっちりとしたドラマとしての印象はやはり舞台がヨーロッパであるだけでなく、作品そのものがヨーロッパ資本で作られた作品であり、監督のフィリップ・シュテルツェルがドイツ人である点も影響しているのかなとも思います。
この辺りのテイストがアメリカの観客向けではないと判断されたのでしょうか、本作はアメリカでは限定公開で終わった模様です。
ミステリとアクション&サスペンスを盛り込みつつも間延びさせずに100分程度できっちりと物語にケリを付けている辺りには好印象を持ちました。
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