【こうして理想の妻ができました】
特集上映「ファスビンダーと美しきヒロインたち」三本中の一本。三本とも面白くて東京だけでなく、横浜での上映にも行ってしまった。
とある新婚夫婦を見つめる観察記録みたいなお話ですが、鞭も蝋燭も使わぬ、こころのSM映画として大変面白うございました。
真性Sである夫と、望まれるMに成り切れず、墓穴を掘ってゆく妻。妻が愚かなぶん、喜劇にも見えてしまう二重の面白さがある先で、結婚が牢獄にもなりえただろう、この時代の臭気もツンときます。
厳格な父親の束縛ゆえか、籠の中の鳥のように三十路を迎えた女。その父と異国に旅する冒頭でまず、いかに世界から一人、浮いた女か、孤独がまさに浮かび上がります。見た目からして、どうもイタイけど。で、そんな彼女を受け入れる男が突如現れて、どうする私っていう。
演じるマルギッテ・カルステンセンのずれ方が巧いな、と思いました。
オスカル様みたいなヘアと、赤暗いルージュ。メイクが時に恐ろしい。骨ばって、美人度薄いです。でもいたぶられると妙に輝いたりする。口元がやらしくて(笑)。そりゃ三十路まで抑圧されたら、溢れるよね。
夫となる男が射す、ギラギラした屹立ペニスみたいな視線と好対照で、二人がその先どうつながるか、よぉーく伝わってしまうのでした。
夫役カールハインツ・ベームは『血を吸うカメラ』の主人公だった男。このこと、あとからすごく納得しちゃった(笑)。いきなり言葉責めで近づく男が、花嫁に何を求めるかは丸わかりで、女の方もわかるから受け入れて、欲情までするのね、と思ったのに…
親の籠から夫婦の檻に移っただけの女には、やっぱりまだ早かった。
車中で、サドじゃなくてもイラつく話を延々、続けたりする新婚妻。夫はそれに耐えたまま…溜めている!後で燃す責めの薪として!(笑)
そんなサスペンスが随所に滲み、じわじわ怖くなりますがいよいよ、新婚生活は妻にとって、女囚物語に変わります。愛という名の拷問!登場人物を猜疑心で見つめるようなカメラが、ずっと不穏で息苦しい。
でもマルギッテが笑わせてくれますからね。ホラー映画でないのに、絶叫クイーンみたいに叫ぶショットなんて、あざと過ぎて大爆笑。追い込まれた人間は滑稽で哀しく塩辛い。うん、結婚はどこかSMなり。
もともと、妻にマゾヒストの素養がどこまであったのか、それとも親から仕込まれた従順が、身体から抜けなくなっていたのか。また厄介なのは、三十路になり世間体という、強固な鎧も脱げなくて。
これらから妻をどう見るかで、キツイ結末も違って見えてきますね。真性マゾとして開花すれば、理想の夫婦の出来上がりなんですが(笑)。
今回三本みましたが、この監督が描く女性は言動豊かで面白いです。
マルギッテさん、痩せぎすですが、サービスショットもありました。夫の企みで、『ヘルレイザー2』皮無女の如くなる「赤痛い」フルヌード。白いベッドに倒れるその被虐美は、サドには垂涎だったことでしょう。
横浜の映画館、ジャック&ベティは初めて行きました。名画座のうらぶれが残っていいですね。観客の年齢層めちゃ高でした。
行きは閉鎖されたストリップ劇場の前を通って小屋に向かい、帰りは川沿いの夜桜を見上げながら駅に戻りました。クールな変態映画をみた後で、なかなかオツなものでしたが、街がもっといかがわしかった頃に来たかったな、と少し残念でした。
<2013.3.26記>