くりふ

愛、アムールのくりふのレビュー・感想・評価

愛、アムール(2012年製作の映画)
4.0
【老いるを堂々窃視】

リバイバル公開の『八月の鯨』と併せて、みました。自虐だ(笑)。自らにも降りかかる、老いの現実をシビアに見せるかと思わせた先で、映画は離れた他者の物語として浮遊し終わります。

それは逃避だけれど救いでもあって、自らの物語は自ら紡げ、とボールを投げられたような気分にもなりました。何にせよ、映画をみるという行為について強く、自覚を促されます。

それは一つに、虚構を言い訳に、他人を窃視する行為であること。

例えば、衰えてゆく老女アンナの失禁が容赦なく描かれます。誇り高き彼女は、長年連れ添った夫にも知られたくなかったでしょう。しかも自分では始末できず、彼に頼るしかないという屈辱。

これを見つめる観客は、はっきり覗き屋です。そのことが、映画館の暗闇に隠れようとしても無理だよ、とばかりに炙り出されてしまいます。…なぜ後ろめたくならにゃいかんの?(笑)

ハネケ導師は容赦なく、窃視道を極めよ!と観客を離してくれません。

しかし、嫌がらせのようにも映る描き方は、言い換えれば、それだけ観客の視線を意識しているということでもあって、観客に快楽を齎すことの欺瞞に自覚的であるなら、むしろハネケは、映画にそれだけ真摯に取り組んでるのでないか?と今回は感じました。今そこにある映画、とでも言うべきものを作ろうとしているのか。

この、切ると血が出そうな、できたてホヤホヤ感は、ハリウッド製マーケティング大作では絶対に、味わえません。

内容的には、老夫婦の家、切り取られ閉じた限定空間の中でさらに、彼らと、そこに入り込む娘たちの心理空間がみるみる変化すること、そのこわさ、やるせなさの醸し方がそうとうに巧い、と思いました。

心・身体・檻、というある種の三重苦とも変じてゆく家の中の空間。この面白さが、残酷であってもいちばんの魅力でした。閉じた空間があるからこそ、迷い込む鳩も効いてきますね。

イザベル・ユペールさんは、実のある大した女優と改めて思った。最近、シャブロル作品をまとめてみた時に、実感したんですが。60歳でこの色気ってところもさすがです。

あと余談に近いですが、物語の行く末が某フランス映画、やはり「愛と激情」を描いた有名作と、一見よく似ていますね。こちらは鳩でしたが、あちらは猫でした(笑)。

<2013.4.15記>
くりふ

くりふ