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天使の分け前の一人旅のレビュー・感想・評価

天使の分け前(2012年製作の映画)
5.0
第65回カンヌ国際映画祭審査員賞。
ケン・ローチ監督作。

スコットランドを舞台に、ウイスキーに魅了された青年の奮闘を描いたコメディ。

『ケス』『大地と自由』『SWEET SIXTEEN』『わたしは、ダニエル・ブレイク』のイギリス映画界を代表する名匠ケン・ローチによるコメディの秀作。スコッチ・ウイスキーの故郷スコットランドを舞台に、暴力事件を引き起こし社会奉仕活動中の青年ロビーが、ウイスキー愛好家との出会いをきっかけにその魅力に目覚め、やがて3人の奉仕仲間とともに100万ポンドの貴重なウイスキーを盗み出そうと奮闘するが…という“ウイスキーとの出会いを通じた人生の起死回生”を、蒸留所見学におけるウイスキー生産工程やブラインド・テイスティングなどウイスキーに関する蘊蓄を散りばめながらユーモラスに活写しています。

お金も仕事もなく性格は粗暴、それでいて恋人との間に子どもが産まれようとする主人公のキャラクターと境遇は、社会の底辺に生きる庶民の日常を描き続けてきたケン・ローチらしい設定であり、そうした人生のどん底から抜け出そうともがくストーリーもいたって定番ですが、本作の場合スコットランドの伝統文化であるウイスキーが物語に深く絡んだコメディ作品に仕上がっています。ただ、ウイスキーとの出会いによって主人公が自己を見つめ直し真っ当な人生を歩もうと努力する…のではなく、意外にもお話の中心は超高額ウイスキーを盗むための奮闘劇です。ある意味、ウイスキーとの出会いが主人公の犯罪欲を助長しているとも言える皮肉な展開ですが、タイトル「天使の分け前」の本当の意味と主人公の人に対する感謝の気持ちが鮮やかに決まるクライマックスは泣けるほどの感動に包まれます。

ケン・ローチ作品はことごとくハズレなしで、本作もその完成度と独自性に驚かされます。稀有な「ウイスキー・コメディ」の秀作。
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