書庫番

リンカーンの書庫番のレビュー・感想・評価

リンカーン(2012年製作の映画)
3.9
2013年4月19日 劇場鑑賞。

冒頭の南北軍の激突から目を惹かれる。
肉弾戦の果てに銃槍に身体を刺し貫かれ、踏みつけられて泥濘に沈んでいく黒人兵士の顔・・・。
この南北戦争という争いが、奴隷制度撤廃の為の戦いである事を観る者に強く語り掛けてくる。

偉大な解放者にして”最も愛された大統領”、エイブラハム・リンカーン。
その彼を演じきったダニエル・デイ=ルイスは、評判に違わぬ”偉大なる演技者”であった。
リンカーンが抱えていた熱き信念と情熱、そしてそれに伴う大いなる苦悩。
その何れもが観ている側にひしひしと伝わって来るダニエルの表現の見事さは、最早神がかり的ですらある。
困難に立ち向かう男が時折見せる茶目っ気がまた良い。
リンカーンの人物像を深く掘り下げ、魅力的に見せてくれたダニエルが、3度目のアカデミー主演男優賞を
獲得したのも納得である。

共演陣もまた素晴らしい演技で本作を盛り立てる。
リンカーンの妻、メアリー役のサリー・フィールド。
息子達の死によって心のバランスを崩していたメアリー・トッドを好演。
共和党のロビィスト、ウィリアム・N・ビルボーを演じたジェームズ・スペイダーのコミカルな演技もまた、本作にスパイスを効かせている。
そして外せないのが、奴隷解放急進派のタデウス・スティーヴンス共和党議員を演じ、アカデミー賞助演男優にノミネートされたトミー・リー・ジョーンズ。
スティーブンスは一刻も早い奴隷解放に拘り、情熱を傾け、反対派に容赦なく痛罵を浴びせる。
そんな彼の言動を支えていたものが、観ている我々の目に触れた瞬間、僕の胸は熱くなった・・・。

全ての人間に自由な世界を実現するという理想を叶える為、時には苦渋の決断を下し、時には策をも弄する。
そんな人間臭い一人の男が成し遂げた、後世に語り継がれる偉業を描いた見応えある人間ドラマ。
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