MasaichiYaguchi

リンカーンのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

リンカーン(2012年製作の映画)
3.5
本編上映前のスティーブン・スピルバーグ監督自らの「前説」を観ても、この映画への意気込みが伝わって来る。
そして、それに応えるようにダニエル・デイ=ルイスがリンカーンに成りきって演じている。
この作品は奴隷解放を巡り4年間にも亘った南北戦争の末期を舞台に、奴隷制度廃止を旨とする憲法13条修正案を巡る戦いを描いている。
エイブラハム・リンカーンというと、「人民の、人民による、人民のための政治」という有名な演説の一節や、リンカーン記念館を思い浮かべる人が多いと思う。
本作ではリンカーンの偉大さもさることながら、汲めども尽きせぬその魅力や、人間力のある人物としてリンカーンを描いていて、今まで教科書でしか知らなかったリンカーンが「生きた姿」で我々の前に現れる。
ここに登場するリンカーンは例え話や笑い話が好きで、その場の空気を和ませて人々を魅了して止まない。
そして、ここぞという時は宥めすかし、場合によっては恫喝して人々を説得する。
また映画では政治家としてだけでなく、一人の父親として妻子を愛する姿も描かれる。
理想やマニュフェストを高く掲げても綺麗事では政治は進まない。
高い志を持ちながらも現実主義に徹して物事を進めなければ、自らの理想に近付けない。
腹芸をしたり根回しや多数派工作だって時には必要だ。
アメリカ議会でのロビイストの存在は知っていたが、まさかリンカーンの時代からいるとは思わなかった。
理想と現実、本音と建前、高い志と実務、これら二つを時と場所に応じて使い分ける「偉大なリアリスト」としてのリンカーン。
28日間に亘る憲法13条修正案を巡る攻防は採決の場面で最高潮に達する。
「人間の尊厳」を守る法案を実現する為に支払われた何十万もの尊い命。
自らの理想の為に大きな犠牲を払ったことに対する葛藤に苦しみながら、それを乗り越え、未来を見据えたリンカーンの姿に静かに胸に熱いものが込み上げてきます。