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嘆きのピエタのnetfilmsのレビュー・感想・評価

嘆きのピエタ(2012年製作の映画)
3.8
 殺風景な部屋で、男は抱き枕を抱えながら母親の夢を見て果てる。「ハレルヤは永遠なり」また今日も男の長い一日が始まる。うらぶれた町工場では今日も夫婦が借金の取り立てを恐れていた。2人は消費者金融で借りた金を使い込み、返す当てなど残されてはいない。夫フンチョル(ウ・ギホン)は片端になり、障害年金をもらって暮らそうと妻ミョンジャ(カン・ウンジン)に提案するがそれは嫌だと却下される。その様子をイ・ガンド(イ・ジョンジン)は曇りガラスの向こうからじっくりと凝視していた。借金取りの男は、悪魔のような本性を見せる。妻は1週間、男の愛人になろうとするがガンドは金にしか興味がない。フンチョルは不自由になった身体を抱えながら、ただただ自分の運命を呪った。鶏を絞めた男は路地裏の氷に滑り、うっかり鶏を逃すのだがそこには一人の女性が鶏を握りしめ立っていた。ミソン(チョ・ミンス)はそれからガンスの様子をずっと見張りながら、私はあなたの母親よと呟くのだ。

 鬼畜のような所業を続ける息子の前に突然現れた母親の姿にガンドは怒り狂い、戸惑い、ただただ目の前の女を呪う。物心ついた頃から母親の温もりを知らず、家族の安らぎをも知らなかった青年はやがてどんな残忍なこともする悪魔になり下がった。ガンドはどこまでも出て行かない女を諦めさせようと力づくで押し倒し、俺を再び子宮に戻してくれと訴えかけるのだ。男は真に惨たらしい方法でしか母親を感じ取ることが出来ない。また愚かな母親も自分自身を傷付けることでしか贖罪の念が消えない。その日から男の容赦ない取り立ては良心の呵責に駆られ、やがて母親は復讐されてしまうのではという疑念が頭をもたげ始めるのだ。ようやく現れた母親の消失の恐怖を感じ始めたことで、取り立てられた人たちの背景が徐々に男の心にも入り込んでいく。人間の心を取り戻したガンドの借金を踏み倒した人たちへの行脚は、『サマリア』で生き残った少女の売春行為にも似ている。しかしどんなに懺悔をしようが、やってしまった行為(罪)は永遠に消えることがない。川辺に植えられた松の木は、ガンドが追い求めた優しい家族の姿を僅かに留めている。
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