KAJI7

嘆きのピエタのKAJI7のレビュー・感想・評価

嘆きのピエタ(2012年製作の映画)
3.9
飲み過ぎでドロドロに溶けきった脳を、溢れないようにそっとコップに納める。
ぴったり擦り切れ一杯。チワワの瞳みたいにブクブクしていて、ともすれば病的なすれすれ加減だ。
僕なりに時間をかけて慰めたつもりだったが、それでも中の液体は外に出たいと躍起になっている。
これを表面張力というのだろうか?
こう見ていると、溢れそうで溢れないこの現象は、体を置いてはコンビニにもいけない世話焼きな魂のようで、なんだか愛しくも思えてくる。

年明けの残り香にセンチメンタルの意味を問いかけるが、既読はまだつかない。
返信を待つ間に、僕はこのコップにあるガーネットを永遠に残したくなって、おもむろに冷蔵庫を開けた。

僕の冷蔵庫にはまるで生活感がない。
切り崩した白菜には正気がなく、たった一人残された卵の横顔には未亡人の物憂げさが滲む。豆腐やネギについても遠征帰りのサッカー部員のようなぐったり加減がなんだかおかしい。

コップを冷蔵庫に入れている間は何も考えることが無い。
ただ時間が経つのをひたすらに待って、ゼリーの仕上がりをたまに確認しては深く溜息をついてまた戸を閉める。
バタンといつもより大きく音が鳴っている気がするが、そんなことはあんまり気にならない。液体が固体に、期待が真実に変わる瞬間は、何よりも僕の想像力を掻き立ててくれるからだ。
耳は今や聴くことに興味を失って、家主のいないピアスが箱の中で誰かの帰りを待っているみたいにソワソワしている。

そんな煌めきを無視して、僕はただただへたり込んで待つ。
ただ待つ、家宝は寝ても覚めても待つ他ないのだ。

映画でも観ようと思ってキム・ギドク作品を探すが、いつの間に一通り観てしまったのか、どれも知っているタイトルが並んでいる。
『弓』と、『嘆きのピエタ』が特に印象的だった。考え抜かれている。

そうして何もせずごろごろしていると、返信があった。
センチメンタルの意味は、なんと冷蔵庫の中にあるという。

僕は言われるがままに開けてコップを確認する。

グラスの中で、元気な赤ん坊が泣いていた。
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