湯っ子

はじまりのみちの湯っ子のレビュー・感想・評価

はじまりのみち(2013年製作の映画)
4.3
私が大好きな「河童のクゥと夏休み」、
クレしん映画「モーレツ!オトナ帝国」「アッパレ!戦国大合戦」の原恵一監督初の実写作品。
映画監督木下恵介の生誕100年プロジェクトのひとつとして制作されたそうだ。
疎開先へ病気の母をリヤカーで運ぶ、それだけの話。それなのに、心に自然に染み込んでくるような映画だった。

2013年公開。きっと当時、最高のキャスティングだったに違いない。ほんの端役まで、全ての役者が素晴らしかった。全員について語れそうだけど、長くなるのでやめとく。

それぞれの人物設定が綿密に作られていると思う。全ての登場人物にそれぞれものすごい説得力がある。そして、その人物に命を与える役者たちも、最高の仕事をしている。

母親は、おそらく脳疾患による後遺症で、このような症状なんだろう。ここをきちんと設定していることで、この映画と原監督に絶大な信頼を置いてしまう。
そして、まるまる2日、いくら寝たままとはいえ、リヤカーで運ばれることになんの不満ももらさないことがどれだけ辛抱のいることか。いくら言語障害があったとしても、意思表示ならいくらでもできるはずだ。そのへんも、この母親の人となりであることをきちんと描いている。

長男は物腰柔らかくて現実的、次男は外面は悪いけど甘えん坊で理想主義。そういう傾向があるのは、私も2人の息子がいるのでよくわかる。
次男である主人公の木下恵介が母親の顔の泥をぬぐうシーンが素晴らしかった。

少しセピアがかった映像が美しく、光と闇のコントラストがとても印象的。この映画のトンネルの写し方がすごく好きだ。構図が良い、という私が最近覚えた言葉がこの映画にも当てはまる。
これは、原監督がもともとアニメの監督だったからなのかな、と思ったり。
森の中、雨がざんざん降りなのに木漏れ日が差し込む映像も美しかった。これは、わざと昔の映画らしさを演出しているのかな?こういう天気もあるにはあるけど。
いずれにしろ、細部にこだわる原監督が、雨に差し込む光を意識的に写しているんじゃないかと思った。

ちょっと残念なのは、ラストの木下監督の映画ダイジェストが長い。生誕100年プロジェクトということで、木下監督へのリスペクトなのかもしれないが、ここが長いせいで、物語の余韻が少し削がれてしまった。物語部分のラストの切れ味は良いだけにとても惜しい。
物語の途中で挟まれる木下監督作品「陸軍」のシーンも相当長いのだが、ここはまるまる使いたかった気持ちもわかるので、こちらそれで良いとしても…

とはいえ、地味なのにとても丁寧に作られた素晴らしい映画であることは間違いない。
木下監督作品はきちんと観たことがないので、これから少しずつ観ていきたいと思った。
湯っ子

湯っ子