回想シーンでご飯3杯いける

くちづけの回想シーンでご飯3杯いけるのレビュー・感想・評価

くちづけ(2013年製作の映画)
4.0
パケ写のイメージから、年の差カップルが主人公のゆるゆるコメディだと思っていたら、実は大違い。知的障がい者の娘を持つ父親の葛藤を描いた、とても考えさせられる作品だった。

本作では、知的障がい者に対する偏見、障がい者が起こす犯罪、結婚問題、親が亡くなった後の生き方等、実際の障がい者や、その家族が直面する問題の数々を物語の中に取り込んでいる。

しかし、元が舞台作品という事もあり、グループホームという限られた空間の中で繰り広げられるコメディ・タッチの作品に仕上げられているので、現実感は薄く、重過ぎる感じも無い。障害者の頭を漫才のツッコミのように叩く女子高生(橋本愛)や、彼らを「キモい」と馬鹿にする女子高生、福祉に対して辛辣な目線を持って働くグループホームのオバサン等、敢えて様々な立場の人物を登場させる事で、僕達は窮屈になり過ぎることなく、作品が提示する障がい者問題に対して、広い視野を持ちながら考える事が出来る作りになっている。

終盤で、障がい者の父"愛情いっぽん"が選んだ行動に、彼の娘に対する愛情を感じて感動、または涙する人も多いだろうが、一方で、違和感を感じる人もいると思う。実際に障がい者を持つ家族や、福祉の現場に従事する人の努力を裏切るような結末とも言え、当事者にとっては、腹立たしく感じるかもしれない(他のレビューサイトでは、多くの批判が寄せられている)。最も救われなければならない当事者を傷付けてしまうのであれば、それは非常に残念な事だと思う。

人の感じ方は様々。この表現は駄目、その表現は道徳に反する、、、と万人の意見を取り入れると、世の中の映画は全て当たり障りの無い内容になってしまう。本作も模範的な内容に留まる道徳の教育ビデオのようになってしまうだろう。しかし、そうなってしまうと、本作の多くの人にアピールするメッセージ性が犠牲になってしまう。これは、本作に限らず、映画という表現行為に於ける永遠のテーマなのだと思う。

「くちづけ」は、障がい者問題だけではなく、映画のあり方や、僕達が映画に何を求めるのかという事を考えさせる作品だ。スコアは作品の内容だけではなく、映画や表現行為に対して考える機会を与えてくれる攻めの作品であった事に対する評価も加味している。