【白々しい未来】
丁寧で抑制されたつくりでしたが、ぼんやり退屈でした。
先日みた『クラウド アトラス』でも感じましたが、SF映画にワクワクする未来が出難くなってきた気がする。ディストピアだから、という意味ではなく、何だかチマチマと理屈ぽくて弾けない。ネタの枯渇より、未来に対する想像力が枯渇しているのでは?と気になってしまいます。
ボンドガールに出世したらば逆に、脱がなくなったけれど(笑)、オルガさんは好きなので、眠れる美女役に惹かれたのがみた動機。
『トロン:レガシー』は肝心なところが隙間だらけの映画だったので、同監督作という意味では期待しませんでしたが、質的にはまったく『トロン:レガシー』の変奏、というふうな総体感でした。
この監督さんは、モノとヒトとの関わり、モノによるヒトの変化、セカイの変化を描きたい人なのだろう、と改めて感じた。(その視点からは敵の正体もまあ、腑に落ちないではなかったです)
そんな欲望から作られた世界観、一応目鼻は揃っていると思います。白でまとめたのにグレーに感じる所は面白い。白々しい未来(笑)。
が、私はこの箱庭に没入はできませんでした。モノは揃っていても、そこに乗るヒトの描き方を、どうも紋切型で浅く感じてしまうのです。
それでも最後までみられたのは、まだまだ安定のトムクル力でした。心の若々しさに、身体の渋みが追いついていない感もありでしたが。
女優さんは二人とも、奥まった魅力は引き出せていないと思った。オルガさんは、最後のゆとりある横顔だけはすごく共感しましたが。
これは、心象補足となる絵画「クリスティーナの世界」との連動が、けっこう大きいとは思います。理屈っぽいけど納得はできた。
…オリジナルしか存在しえないテンペラ画を最後に持ってくること。
本作の肝に触れる部分ですね。でも、テンペラ画をあんなふうに、丸めても大丈夫なんだっけ?実はあの絵も複…(笑)。
個人的には、天空なのに密室な、あの独特な空間での心理劇に絞って、三角関係の行方…あの場所から落ちるのは誰か?いや、残った方が果たして幸福なのか?というスリリングをみせてほしかったです。
理屈ぽいので逆に、図式的に捉えて面白いと思ったのは、これは○△□の映画だなー、というところ(笑)。
ヴィカは四角四面で□のかたちの中から出ようとせず、○のかたちを操るジャックは円満そうに見えて、違う。本作での○には裏表があります。で、セカイは△から壊れてゆく。
小文字のデルタ睡眠(こじ付け)から、ジュリアが目覚めることで、三角関係が出来上がり、この緊張感が巨大な△の崩壊へとつながる。因みに巨大な△は、□と組み合わさったものでした(笑)。
そんな視点で単純化しつつ、ジャックとヴィカは理解できました。ジャックは過去を取り戻したくて、ヴィカは未来しか見ていない。しかしジュリアは謎。言動、怪しいと思う。
彼女は目覚めたとき、翌日のような感覚のはずだから、ジャックへの態度も腑に落ちない。彼女、観客にも知らされていない情報、持ってたんじゃないかなあ?
あ、ヴィカには懐メロ趣味なかったですが、彼女が聴くならきっと、フィル・コリンズの「Another Day in Paradise」だと思います(笑)。
謎とツッコミどころは豊富ですが、敵の正体・目的がグレーなのは、とりあえず置いておくとしても、お話が盛り上がるところで、あまりに敵の管理力が甘すぎることにはシラケてしまいました。
自陣への侵入者に、空港の防犯チェックレベルのこともやらない。やれば、元々自作である危険物を見つけて反撃も防げたでしょうに。
また、あれだけの戦力を温存しているなら、システム保守班も、残党狩り班も、十分厚くできるでしょうに。何故放っとくのか?そもそも、自駒を放任してましたけどね。…敵に破滅願望あり?(笑)
なっちの訳で気になったのは、「I’m not him.」という重要台詞の意訳。ある科学用語(本作で使うのは間違い)を被せ、意味を変えてしまった。自己同一性に関わり、ラストの台詞と対になるポイントの筈ですが…。変えた意図はわかりますが、あれだと安っぽいと思いました。
…等々、キーワードは豊富なので、気になった所は豊富にありますが、ツッコミ魂をむしろ刺激されてしまう所が、私には残念でした。まだありますが、長くなるので、このへんで終わります。
…ところで、あっちのヴィカさんはどうなったの?(笑)
<2013.6.18記>