MasaichiYaguchi

少年HのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

少年H(2012年製作の映画)
3.5
本作原作の冒頭に、このような「おことわり」がある。
「この本は総ルビに近いほど、漢字という漢字にルビをふりました。(中略)ぜひ少年少女にも読んでほしいという思いをこめて、昔のような本にしました。」
監督は降旗康男さん、脚本は古沢良太さん、水谷豊さんと伊藤蘭さん夫妻主演のこの映画は、原作の思いを酌むように、少年少女にも第二次世界大戦の日本がどのようなものであったかを分かり易く描いている。
妹尾河童さんのこの長編小説は122分の枠に全て網羅することは出来ないので、多少エピソードを割愛しているが、映画化作品として上手く纏めていると思う。
原作を読んで感じていたが、映画では更に妹尾家の家族の絆がより強く描かれている。
今では失われてしまった感のある一家の大黒柱としての父、愛に満ち、家族を陰で支える優しい母、家族思い、兄思いの妹、そういう家族に囲まれた「少年H」こと肇の生活は、戦時中という厳しい環境下だから尚のこと、その家族の温もりが伝わって来る。
この映画は声高に戦争反対を訴えていない。
あくまで普通の少年・肇の目を通して、開戦直前、戦時中、終戦直後の自分の身の回り、学校や家庭、町内の様子、開戦と共に変わっていく生活、戦争が進むにつれ納得出来ないことや決まり等を素直な気持ちで描いていく。
多感で一言多くて損ばかりしている「少年H」こと肇を演じた吉岡竜輝くんが上手い。
そして本作を牽引したお父さん・盛夫とお母さん・敏子を演じた水谷豊さんと伊藤蘭さんが、実際のご夫婦だということもあり、息の合った演技を繰り広げている。
この映画で言いたかったことは、原作にも出て来る肇の次の言葉に尽きるような気がする。
「この戦争は、いったいなんだったんや!」
焼け野原になった町、多くの人々が戦死したり、空襲で亡くなった戦争が終わると、手の平を返したような態度をとる大人たち、そして虚無感に囚われる人。
全てを失ったところから「不死鳥」のように立ち上がる人々を描いて、映画は幕を閉じる。
忘れてはいけない「歴史の1ページ」を、恰もルビをふったような感じで映画で描き、子供たちにも分かるようにした本作は、家族の温もりと共に我々に語り掛けてきます。