《厳しくも現実的な「夢を持つ前に大切な事」》
【初見から数年後、評価爆上がり】
正直、公開当時は「つまらないなぁ」という印象が強かった。どうしても前作の感動ファンタジーと比べると…。ただ、数年経ってから今作の本質をよく考えてみると、身にしみるメッセージ性でだんだん評価が上がった作品。子供向けとは思えないほど厳しいメッセージを、とても前向きに捉え描いていた。
【努力のマイク】
マイクの立場はすごく共感できる。夢に向かって努力をするが、その夢に関する才能が無い。それでも「叶えるんだ」と非常に前向きだからこそ切なく感じる。普通の子供向け作品だったら、このまま「努力すれば夢は叶うんだ」になるだろう。しかしそうはさせない。
【才能のサリー】
一方、サリーは才能があるものの努力をしない。特に前半はマイクをさらに酷な立場に見せるための存在に感じる。話が進むにつれて、才能コンプレックスのような弱さも描かれ「努力しない才能」の無能さと向き合い自分自身を見つめ直す。才能も努力無しでは活かせない。
【とことん追い込む今作】
マイク率いるウーズマ・カッパは「個性を活かせば夢は叶う」という答えにたどり着いたが、それすら否定するに近い描写が待っている。とことんマイクを追い込む。
追い討ちをかけるように、校長がサリーに核心をつく一言を言う。「あなたは彼(マイク)を怖いと感じますか?」。そこからサリーは「努力は報われなくてはならない」「人としての魅力は評価されるべき」と観客の思いを代弁するかのようにマイクを助けはじめる。ただ悲しい事にマイクが持つその素晴らしい魅力は「夢を叶えるための実力」では無いらしい。マイクにはもちろん、かばうサリーに対してもとことん甘やかさない。
なんて残酷なんだろう。「努力」「いい人」それは結果に関係しない事がある。とてもシビアな展開。敵チームのロアー・オメガのように道徳的な模範で無くても才能があれば認められる。
【でも、2人なら叶えられる】
ただ、クライマックス。マイクの持つ度胸と、臆病だが才能を持つサリーの2人でなければ成し得ない展開。マイクのお陰でサリーは強くなれる。サリーのお陰でマイクは叶えられない夢を見られる。得意、不得意があるからこそチームで叶えられる夢もあるという結末。社会の縮図さながら。
【魅力的な今作の本質】
何がしたいか(憧れ)では無く、何ができるか(得意か)が圧倒的に人生を助けてくれる。憧れや夢は偶然現れ消えていったり裏切られたりもする。反対に、自分に備わっているものは必然的で永遠に自分の中にある。裏切らない。自分が出来る事に前向きに努力すれば必ずその先へ進める。大切なのは憧れに執着し過ぎない柔軟性と自分自身の素質を客観視し認めてあげる事。それが出来たマイクだからこそ、この後サリーと一緒にNo.1になれたのだと思う。ひたすら漠然と「夢=叶うもの」と描き続けてきたディズニーだからこそ、今作の「夢」と「叶う」の描写にはハッとさせられた。
【ただ、】
正直、今回の子供が楽しめそうな競技シーンなどは、カーズ2に似た「中身の薄いアクション」の印象を受けた。今作のドラマが待っているのは終盤なうえに、前作の「感動ファンタジー」という要素が強烈に頭に残っているので余計に。大人でも共感してしまうテーマ性を強化する事で、出てしまう本末転倒な不満。
そして、今作こそエンディングテーマに「君がいないと」が相応しいと思った。
【総括】
今作は、興奮度は低いがテーマが良かったので評価アップ。暗くなってもおかしくないテーマだからこそのコメディーや楽しい描写だったのかなとも思う。どうしても夢と素質が一致しないマイクが可哀想になるが、本作の1番のメッセージは夢を持つ以前に「自分を認めてあげよう」という温かい応援だった。