akrutm

ホーリー・モーターズのakrutmのレビュー・感想・評価

ホーリー・モーターズ(2012年製作の映画)
4.2
主人公の男性が、予め決められたルーティンワークのように、様々な人物に扮して短編映画を劇中劇として見せていく、レオス・カラックス監督のドラマ映画。主人公オスカーが、秘書セリーヌの運転するリムジンを楽屋として利用して、様々な役(11役!)に扮してパリの街中を駆け巡る1日の様子を描いている、と言うだけでは、この映画の凄さというか特異さが伝わらないので、とにかくまず観てもらいたい映画である。

本映画のレビューや解説の中には、映画誕生からの映画史を描いているとか、様々な作品へのオマージュが散りばめられているとか、いろいろな小難しい言説がなされているが、そんな難しいことを考えなくても、各個人の楽しみポイントを見つけることができると思う。少なくても、レオス・カラックス監督の過去の作品を知っていれば楽しめるだろう。『ポンヌフの恋人』の20年後が劇中劇として挿入される(もちろん本映画でオスカーを演じているドニ・ラヴァンが『ポンヌフの恋人』をはじめアレックス三部作のアレックスを演じている)し、3人の監督によるオムニバス映画『TOKYO!』でドニ・ラヴァンが演じた怪人メルドも出てくる。私はこれらの映画を観ていないが、それでもメルドのインパクトを堪能した。逆に『TOKYO!』も観たくなってしまったくらいである。その他にも、怪人メルドが拉致した美女との関係が『美女と野獣』のようだとか、死に際の老人と姪のシーンはヘンリー・ジェイムズの小説『ある婦人の肖像』だとか、いろいろと見つけ出すことはできる(そうそう、スパイダーマンも出てくる)かもしれないし、それらに気づかなくても全く問題ない。個人的には、ラストシーンが大島渚監督の『マックス、モン・アムール』を意識しているのかなとは思った。

また、本作はドニ・ラヴァン演じるオスカーの1日が、レオン・カラックス監督のこれまでの映画人生を表現しているように解釈することも可能であろう。映画の冒頭ではレオス・カラックス監督自身が夜中に映画館に行って観客を後ろから眺めるという場面が出てくるし、監督の分身とも言えるドニ・ラヴァンにオスカーを演じさせているし、まさに自分自身を描いているように見えるのである。さらに、途中でいきなりリムジンの中に初老の男が現れて、オスカーと交わす会話がなかなか意味深で味わい深い。例えば、昔の重いカメラが懐かしいと、現在の撮影技術に異を唱えるようなセリフなどは、レオス・カラックス監督の信念が表れているのかもしれない。

それから映画の最後に、リムジン運転手の秘書セリーヌがスケキヨマスクを被るシーンが出てくる。どういう意味があるのか調べてみると、セリーヌを演じているエディット・スコブの代表作に『顔のない眼』という映画があり、その中で火傷のために仮面をつける娘役で出演しているとのこと。それへのオマージュであるらしい。それからもうひとつ、リムジンの中で昼食に日本食の弁当を箸で食するシーンが出てくるのが印象的。インスタントのカップのようなものをすすってもいたが、味噌汁だろうか。
akrutm

akrutm