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プッシャー2のTLsのレビュー・感想・評価

プッシャー2(2004年製作の映画)
4.1
 レフン監督のギラついた処女作『プッシャー』の雰囲気をそのままに刑務所から出てきたてのどうしようもない男トニーを描いた今作。にっちもさっちもいかない男のストーリーという点は前作と同じだが、今作はかなりヒューマンドラマの要素が強く少し希望ややさしさを感じることができる。

アウトロー映画では父と子という関係性が多く描かれる。この映画も例に漏れず父と子という関係が描かれるが他の作品と違い少し複雑に描かれている。組織のボスである父は息子トニーをできそこないとしてみており腹違いの弟を溺愛している。トニーは薄々それを感じており、周囲からも馬鹿にされているが明るく振舞っている。父は息子であるという事実があるからというだけで一応トニーの面倒は見ているが、多くの視聴者はそのことに終盤になってから気付くだろう。それはトニーが実際にボンクラであり、このシリーズの特徴としてにっちもさっちも行かなくなる様を描いているため、面倒を見てくれているだけ優しい父という印象になりやすくなっている。このような父と子の関係がアウトロー映画としては非常に珍しく、死別というありきたりな展開よりも心にくる。

前作と違う点は希望を持たせる終わり方である。自身に子どもができ責任感を感じ始めるトニー、ここでも父と子が描かれるがトニーが自身の父親の真実を知り、父親からなにも関心されているない子の惨めさを身をもって体験しているので、自身の息子にはそのような経験をさせまいと二人でバスに乗り込む。トニー序盤こそ自身の子ではないと言っていたが、後に認知しオムツを替えたり、子どもを気をつけて抱擁するなど彼なりに子どもに対して真摯に向き合う姿勢が見て取れる。この点がトニーがボンクラであっても視聴者が彼を憎むことができない理由であり、彼の終盤での行動にも説得力を持たせている。彼はただボンクラなのではなく単にアウトローには向いていないだけであることがわかる。

レフン監督おなじみの色使いやリアルな犯罪シーンなど、しっかりと期待している点も抑えているので前作を良いと感じたら今作は確実に楽しめるだろう。特に自動車窃盗シーンはかなりよかった。しかし。『ドライヴ』と違いエンタメ性は低いのでそこだけは留意して見て貰いたい。
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