ユンファ

狂武蔵のユンファのレビュー・感想・評価

狂武蔵(2020年製作の映画)
4.8
ストーリーやドラマが何のために在るかと言うと、映画への興味を持続させるためだ。
魅力的なキャラクターや先の読めないストーリー、意外性のあるドラマは観客の気を引く。逆にそういったものがなければ、目の前の映像がどんなに素晴らしくても、映画の世界に観客を没入させることは難しい。
「狂武蔵」には、ストーリーもドラマもなく、基本的にワンカットのアクションがダラダラと続く。
文字通り切れ目のないアクションが目的化されており、アクションに興味がない人にとって、これ以上苦痛な映画はないだろう。

ボクシングの試合を観ていて、打たれても打たれても立ち上がる選手の姿に感動することがある。
「狂武蔵」が目指したのは、そうした身体的限界点を超越した先にある言語化不能のカタルシスではないかと思う。
そうした観点から言えば、残念ながら成功しているとは言い難い。
ボクシングの試合には、いつどちらが勝つとも分からない緊張が常に漲っているが、「狂武蔵」は映画という作り物である以上、開始5秒で武蔵がぶった斬られる筈はなく、ボクシングのようにはなり得ない。

それでも僕が高得点をつけたのは、戦闘が進むにつれて武蔵、いや拓さんが明らかに尋常ならざるオーラを放ち始めること、倒れては蘇るモブの斬られ役たちが次第にそうした気迫に圧倒されていく様が記録されており、それはストーリーやドラマのあるいわゆる普通の劇映画では絶対に観ることが出来ないものだったから。
そして、こうした映画を作ろうと計画し、見事完成させたスタッフ・キャストの気概に心底感動したからだ。
映画に必要なのは、そうした熱意や心意気であると僕は信じているし、拓さんには腐った日本映画界にぶっ込みをかけるクレイジーな侍のままでいてほしい。
ユンファ

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