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ペーパーボーイ 真夏の引力のnetfilmsのレビュー・感想・評価

3.8
 1969年、フロリダ州モート郡の小さな町。大学を中退し、父親(スコット・グレン)の会社で新聞配達をしているジャック・ジャンセン(ザック・エフロン)は、鬱屈した日々を過ごしていた。母親は幼い頃に家を出てしまい、父親の現在の恋人エレン(ニーラ・ゴードン)とはまったく馴染めない。極度にオクテでガールフレンドもいないジャックが心を許せる話し相手は、黒人メイドのアニタ(メイシー・グレイ)だけだった。大手新聞社マイアミ・タイムズに勤める兄ウォード(マシュー・マコノヒー)が、同僚の黒人記者ヤードリー(デヴィッド・オイェロウォ)を伴い、4年前にモート郡で起きたある殺人事件の死刑囚の冤罪疑惑を再調査するために帰省する。人種差別主義者の保安官が刃物でめった刺しにされたこの事件は、ヒラリー・ヴァン・ウェッター(ジョン・キューザック)という貧しい白人男性が逮捕され、既に死刑判決が確定していたが、ウォードは裁判が極めて不公正な状況で行われたため、冤罪の可能性があると睨んでいた。今作はいわゆる『ゾディアック』タイプの猟奇ミステリーである。主人公を含む敵と味方の四角関係に黒人が入り込む余地はないが、ダニエルズは巧妙にヤードリー(デヴィッド・オイェロウォ)と黒人メイドのアニタ(メイシー・グレイ)と黒人を重要なキャラクターとして配置している。

 黒人としてのアイデンティティを保つ場面もしっかりある。物語の中盤、地元の名士である初老の白人を前に黒人記者ヤードリーが対峙する場面である。単なるハードボイルドに陥りそうな物語に、女が一人加わるのが本作の旨味となる。典型的な金髪に派手めなメイクと派手なミニ・スカート。1969年の田舎町にいたとすればとんでもなく綺麗な女性であるが、このニコール・キッドマンの浅はかで狂信的な愛がやがて大きな悲劇を迎える。主人公は痛々しくも、この囚人に恋をしてしまった年増女を愚直なまでに愛する。そんな気持ちを知ってか知らずか女はザック・エフロンに情けをかけ、一夜を共にする。これら物語の本線に黒人たちはまったく入り込む余地がないまま物語は進んで行くが、監督であるリー・ダニエルズは黒人の作家として唯一の抵抗を忍ばせているのである。それはエフロンの兄役であるマシュー・マコノヒーに対する黒人青年たちの暴行シーンである。このモーテルで起こる突然の悲劇をダニエルズは物語の範疇から幾分誇張気味に伝えている。足には手錠がかけられ、明らかにアナルは貫通し、顔は無残にも殴られ原形をとどめていない。エフロンはモーテルのガラス窓を素手で蹴破り、痛々しい姿になった兄貴を救出する。ここから物語は一気に凄惨さを深める。
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