くりふ

ヒステリアのくりふのレビュー・感想・評価

ヒステリア(2011年製作の映画)
3.5
【医師よりイカセ師】

瀉血と不潔、19世紀末ロンドンの驚愕医療現場を端的に見せる冒頭が巧い。

それに耐えられぬ若き医師モーティマーが、婦人科に流れて隠れた才能(笑)を発揮してゆく前半はすごく面白かった。

が、肝心のヒロイン、マギー・ギレンホール演じるシャーロットの浮きっぷりが問題。おかげで彼女の存在が膨らむ後半が、よくわからなくなりました。

本作は女性への性的抑圧…性差問題を追うのかと思っていたら、シャーロットは、当時の社会…格差問題を追う人物なんですね。物語が性差でホップしたのに、ステップ抜かして格差でジャンプ!みたいな、えーとどこ飛ぶんすか?と置いてきぼり食らった気分です。

その狙いは何となく、憶測できましたが。格差をなくすべく、社会活動をしてきたシャーロットの起こす問題が、性差の問題にすり替えられ、社会に裁かれてしまう不条理はわかる。

また、婦人参政権運動が高まった時期でもあり、20世紀に入ると、サフラジェットという命もかける急進派が出てくるような世相だから、その先駆けとしてシャーロットの人物像をつくったこともわかります。

が、理屈でわかっても、彼女の存在が理屈っぽくて、心に響かない。「朝生」出演者の正論聞いてるような気分。わかるけどさあ…みたいな。

彼女が人生かける福祉活動を、通り一遍で描いたのが、拙いと思う。生き方そのものに思わず共感してしまう、とはならないんですね。

また共感者もいる筈が、これだと孤立しているようにも見えてしまう。で、彼女の性格を、誰が見てもヒステリックに描いているから、理解されずとも仕方ないな…というマイナス方向で頷いちゃいます。

これが、ある人物が、彼女側に転向する為の仕込みともわかるんです。わかるんですが、作為が透けてしまうんですね。脚本、感心しません。

脚本の拙さはその転向する人物にも影響していて、その転向演説の、唐突な「オウムぶり」に呆れてしまいました。あれ本心なんだろうか?

…と、理屈ぽい(笑)ことを並べましたが、この辺りが解消されれば、すごく面白くなったのに…と、とても残念なのでした。横道にそれず、バイブ開発秘話をプロジェクトXXX風味にして、直球展開した方が絶対よかったろうに…と、私は思います。

開発過程で「チューニング」とか、必ずやったはずだろうしねえ…。「そこもう少し強く…ってイタタタダ襞巻き込んでるわよヒダ!」「先っちょ中!入ったまんま抜けなくなっちゃったわ何とかしてよ!」…とか、イロイロ秘話、実際はあったと思うんですけどねえ…(笑)。

しかし本作の診療所に来る奥様たち、抑圧はあったかもだけれど、診察をうまく利用して、快楽を強かに謳歌していたって話ですよね。むしろ医師らが大変そう。風俗店みたいなもんじゃないですか(笑)。

治療というより、満足を与えなくてはいけない。医師よりイカセ師。で、診察台の秘所隠しが、魔術師の箱のようで妙に可笑しかったです。

ヒュー・ダンシーは好漢を好演。奥様方が診療に夢中になったのは、彼の手のせいだけではなかった…ということがスグわかりますね。

マギー・ギレンホールは、私は未だに『セクレタリー』の彼女が、一番好きなんですが、直球正論な役だと鬱陶しい人かもしれない。

ルックス本作一のフェリシティ・ジョーンズさんは、眺めて楽しい。でも、一番キャラ立ってたのが、元娼婦役のシェリダン・スミスさん。陰の立役者ペロペロ・モリーのちゃっかりラスト、楽しかったです。

あ、日立製作所が実は陰部の立役者、というのは初めて知りました。愉快に学べるエンドロールは、必見ですね。

<2013.4.30記>
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