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パパの木のemilyのレビュー・感想・評価

パパの木(2010年製作の映画)
3.4
オーストラリアの広大な自然の中で暮らす、ドーンとピーター負債には4人の子供がいる。幸せな日々を過ごしていたがら、突如夫が心臓発作で、車を庭の木にぶつけたまま亡くなってしまう。家族は喪失感の中思い思いの日々を過ごすが、8歳のシモーンが庭の木からパパの声がすると言い出し、常に木に登り話しかけるようになる。次第にドーンも木に話しかけることで、平穏を取り戻していく。

広大な自然を大きく捉え、喪失感の中それでも日々は流れ、そこには大きな木があり、窓からこぼれる朝焼けの光を見上げる妻(シャルロット・ゲンズブール)の横顔から希望の笑顔が美しく浮かび上がる。夕日のカットは恐ろしいほどに壮大で美しく、その真っ赤な色彩に飲み込まれそうになる。寄り添う音楽も幻想的で、父を亡くした後の、家族5人がそれぞれ喪失感と向き合う姿が優しいタッチで描かれている。長男は家計を助けるためにバイトを始めたり、シモーンも落ち込む母親を慰めたり奮闘している。ドーンは喪失感から半年程度の時間を費やし、やっと職につくのだった。その間に子供たちは日に日に成長し、母が別世界にいようとも毎日一生懸命生きているのだ。

シモーン演じる(モルガナ・デイビス)の父親への執着はほかの兄弟より強い。何より自分は父親の”お気に入りの子供”だったと思っているからだ。庭の木はパパの木となり、何をかけても守らなければならないものになる。そう人は守りたいものがあると強くなれるのだ。彼女はそれを自らの小さな体で表現する。母はほかの男に走りフラフラしているが、その間も子供たちはそれぞれのできることを懸命にやっているのだ。

木を切り落とさなければ危険にさらされると感じた時のシモーンの行動、それを止められるのは母親しかいないのだ。夫を亡くした喪失感は拭えない。しかし彼女にはこんなにも大事な存在が居る。守るべき存在がここに息をしているのだ。シモーンの強さと、ほかの兄弟達のさりげない母を支える優しさに包まれ、悲しさの中から成長し、彼らなりの家族を形成していく。母のヒステリックさと娘の傲慢さがぶつかり合い、残った家族の穏やかな姿がよい。子供たちの強さから母親が成長してく物語である。母だって一人の女性で弱いのだ。そうして大切なものに気づかせてくれたのは、パパの木と子供たちである。
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