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ピンクの豹のnoteのネタバレレビュー・内容・結末

ピンクの豹(1963年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

怪盗ファントム逮捕に執念を燃やすパリ市警のジャック・クルーゾー警部。そんな折、中東のダーラ王女がイタリアのリゾート地に、世界最大のダイヤである秘宝ピンクパンサーを持ってやってきた。ファントムがこれを狙うとみたクルーゾー警部は警戒し、妻を連れてリゾート地に乗り込むが…。

はるか昔に、子どもの頃のTV放送で見て以来。
記憶などすっかり無いので新鮮な気持ちで再鑑賞。
ピンクパンサー・シリーズの記念すべき第1作。
内容はモテモテの泥棒紳士と間抜けな警部のドタバタ・コメディ。
女優陣の美しさとファッションは眼福で、洒落た会話にも魅了される。
その合間に挟まるベタなコントとシュールな笑い。
今見ても面白い秀作である。

ピンクパンサーがイタズラしまくる可愛らしいオープニングアニメーションと、絶対に耳から離れないワクワクするヘンリー・マンシーニのテーマ曲に、これからどんなスリルが展開するかと期待する。

冒頭の登場人物紹介はスピーディーかつ華麗。
ファントムが手下と宝石を盗んだと思えば、仲間の女性が宝石を売ろうと画策して警察に追われる。
逃走中のエレベーターで女性は衣装を変えて警察を撒き、ファントム一味を逃して悔しがるクルーゾーはインテリアの地球儀に寄りかかってズッコケる。
そこに現れたクルーゾーの妻はファントムの仲間の女性だった…。

もう、警部の妻が怪盗の仲間であることが既にギャグである。
情報はファントムに筒抜けで、クルーゾーに捕まるはずなどない。

秘宝ピンクパンサーを盗むべく、ダーラ王女の愛犬を誘拐した犯人(手下)を追いかけ、怪我をした善人のフリをして王女に近づく英国貴族のチャールズ・リットン卿。
しかし、彼こそが怪盗ファントムの正体だ。

ダイヤを狙ってリゾート地でリットン卿が王女に接近する。
酒を飲んだことがない王女が、ベロベロの酒乱になるとは可愛らしい。
そこにリットンの甥で、アメリカに留学していたジョージも現れたため、事態はややこしくなる。
叔父が怪盗ファントムである事も、シモーヌが叔父の愛人である事も知らないジョージはシモーヌに夢中になる。

白銀のリゾートを舞台に恋とダイヤの争奪戦が繰り広げられる様は、基本的にヒッチコック監督の「泥棒成金」に似たロマンチック・コメディなのだが、そのオシャレでロマンチックな雰囲気をクルーゾー警部のギャグがぶち壊して目立つ。

いちいちコケるし、物は壊すし、本人は真面目にやってるつもりなのにドジを踏む。
いざ、自分が妻とロマンチックな雰囲気になると、その気になれない妻の要望に答えて右往左往したり、電話が邪魔したり、間男のリットン卿やジョージが部屋に忍び込む。
シモーヌもクルーゾーにリットン卿との内通がバレたら困ると大慌て。
一向にベットインできない艶笑コントにクスクス笑ってしまうことは必至だ。

騒動の中、クルーゾーはリットンがファントムであると確信するが、ダイヤを持つ王女がリゾートを離れたため、舞台はローマへ。
王女邸を訪れたクルーゾーはファントムの正体がリットンだと王女に告げる。
そして王女邸で行われる仮装パーティーの夜に警官を配備し、自らも仮装してファントムを待ち構えるクルーゾー。
わざわざ動きにくい甲冑を着てくるのが既にボケ。
部下はシマウマの中に仲良く2人で入っている。
ファントムを追いかける気があるのやら。

リットンとジョージはそれぞれダイヤを狙い、忍び込む。
パーティーの演出を装い、電気を消して会場を真っ暗にした隙にダイヤを盗もうとするリットン。
蝋燭と間違って、大量の花火に火をつけたクルーゾーのせいで会場は大混乱に。
その間、偶然にも同じゴリラの仮装をしたリットンとジョージが金庫の前で鏡合わせに動く姿はまるでドリフのコントのよう。
だが、ダイヤは王女により隠されていて金庫は空。

リットンの侵入に気付いたクルーゾーは車で逃げるリットンとジョージを追う。
迷路のような市街地で同じ所をぐるぐると回るカーチェイス。
それを地元のオッさんが道路を横断する途中で何度もすれ違い、終いには事故を起こすのがシュールで笑える。

これで怪盗もお終いか?と思いきや、ラストは大逆転。
リットンとジョージを逮捕して意気揚々のクルーゾーであったが、最後は大逆転。
シモーヌと王女は示し合わせ、裁判の前にピンクダイヤをクルーゾー警部の服に忍ばせた。
裁判中に「貴方が犯人では?」と疑われ、冷や汗をかいたクルーゾーはハンカチと共に取り出した宝石が証拠となり、クルーゾーはファントムとして逮捕されてしまう。

一方、リットンとジョージは無罪放免となり、シモーヌと共に旅行に旅立つことにする。
自分が裏切っておいてクルーゾーが可哀そうと言うシモーヌに、リットンが「心配するな、再びファントムが盗みを働けば、すぐに釈放されるから」と言うのが続編を匂わせる。
さて、哀れなのはクルーゾーと思いきや、人気者のファントムと思われてご満悦だ。

デヴィッド・ニーヴン、ピーター・セラーズ、ロバート・ワグナー、キャプシーヌ、そしてクラウディア・カルディナーレと5大スターが競演。

難点なのは、どのスターも煌めいていて、誰を主軸に見るべきか戸惑うこと。
基本的に脚本はスマートな怪盗ファントムに対して、間抜けなクルーゾー警部のドジが笑わせてくれるキャラクターの対比構造になっている。

本来、リットン卿が主役である。
女性にモテて、華麗な手口の怪盗で、しかも英国貴族で元々お金持ちのリットン卿。
文字に起こせば、完全無欠のカッコ良さ。
それこそジェームズ・ボンド並みの色男を配するべきだが、演じるのが少々お歳を召したデヴィッド・ニーヴンなのがいけない。
怪盗としての体力と、モテ男の色気が枯れている。

クルーゾー警部の他人の忠告など全く聞かぬ拘りの強さと間抜けさのギャップを表すためにピーター・セラーズを配し、見た目の厳格さとキュートな内面のツンデレギャップを感じる王女にはクラウディア・カルディナーレ…と、宝石泥棒と警察と宝石の所有者(被害者)の最低限この3人のキャラクターは充分で話は成り立つ。

しかしオッサン2人の追いかけっこでは、いくらオシャレな映画とはいえ女性の集客が見込めないと考えてか、若き美男ロバート・ワグナーを加えている。
正直なところ、このキャラクターは全く必要がない。

クルーゾーの妻であり、ファントムの愛人のキャプシーヌの役は必要か?と言われれば恋の鞘当てとリットンのモテぶりを表すために必要だっただろうが、脇役のコメディエンヌとしてはあまりにもクール・ビューティー。
王女がヒロインであるはずだが、王女と並ぶほど美しいし、目立つ。

リットン役がもう少し若く美男ならば、王女も人妻も夢中になる役に説得力が増し、クルーゾーの破壊的な笑いに対抗できたかもしれない。
キャラクターに目移りしてしまい、ストーリーがブレてしまうという、何とも贅沢な悩みを持つ作品である。
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