みんと

ペトラ・フォン・カントの苦い涙のみんとのレビュー・感想・評価

4.2
ファスビンダー監督、やっと3作目。
取り敢えずオゾン監督のリメイク前に鑑賞出来た事が正解なのか、どうなのか?

二度目の結婚に失敗し落ち込んでいたファッションデザイナーのペトラは助手のマレーネを召使いのように扱いながら、アトリエ兼アパルトマンの部屋で暮らしていた。ある日、友人が若く美しい女性カーリンを連れてやってくる。彼女に惹かれて同棲をはじめるが……。

いわゆるワンシチュ映画。まるで演劇のような台詞量と憑依の演技で引き込み力が凄い。監督自身の実体験に基づく作品となると、その描き方は切れ味も鋭い。

ともすれば睡魔に襲われ兼ねない、抑揚のなさでもあるけれど、ふつふつと湧き出る熱量がとてつもない。ウトウトなんてさせて貰えない。

ここぞの、いや、ここしか無いところで挿入される音楽、そのチョイスも素晴らしく鳥肌レベル。そして、特大絵画の一部であるかの人物の収まり具合、ファッション、色彩、全てが寸分の狂いなく計算し尽くされてる。
もはや映り込むもの全てがアートの一部。
更には、流れるようにスムーズなカメラワークも無駄なく芸術的。

なんと言っても、ペトラ(マルギット・カルステンセン)のメイクとファッションでの変貌ぶりには驚くばかり。とりわけラストの少女のようなノーメイクは、もはや別人でしかない。

最も普遍的な愛と支配の関係性を鋭く分析し描くにはむしろ同性愛設定が説得力を増して思える。また、愛に支配され壊れて行く女性の意味でも、芸術性の意味でも、感性こそ違えど、先に観たアルモドバル監督の『ヒューマンボイス』にも通じる生々しい女性心理のようにも。

ストーリー以外の見どころポイントが多く意識が持ってかれるけれど、実にシンプルで人類永遠のテーマ。人間が如何に愛に支配された生き物なのかを突きつけられる作品でもあった。

何しろ、淡白で冷ややかなラストが上手いなぁ…
なんとも言えない焦燥感に駆られる。


オゾン監督のリメイク版のジャケにドーンとドゥニ・メノーシュは何処か違和感だったけど、あちらはBLに置き換えての作品らしい。

それもまた興味深いところ。
みんと

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