ムテモン

ペトラ・フォン・カントの苦い涙のムテモンのレビュー・感想・評価

4.1
過去に2度の離婚を経験し、ファッションデザイナーとして成功・自立した生活を送るペトラ・フォン・カントが、ある日訪れた野心溢れる若い女子カーリンに入れ込んで破滅していく話。

ファスビンダー自身による室内演劇が原作、登場人物は数少ない。そのうち最も動き回る(動き回される)のがペトラの秘書であるマレーネ。ペトラ含む他の人物は例外を除いて物語の舞台たるベッドから上がることなく、縦横無尽に動き回るマレーネが用意した食事を享受する。マレーネには台詞が与えられていないが、物語が劇的に進行する間、彼女がひたすらに打つタイプライターのでかすぎる音は印象的で、それが彼女の自己主張(マレーネはペトラを愛している)なのだろうという点は推測するに容易い。

ここで想像するのは、未見の原作演劇においてマレーネはどのように配置されたのだろうということだ。映画でのマレーネは、ペトラの指示によって料理をしたり、酒や新聞を取りに行ったりする間、フレームアウトすることがある。その代わり、物語とは全く関係のない箇所に彼女の物憂げなクロースアップが幾つか存在する。
では演劇は?彼女はほぼ全編において舞台に立っていたのではないか、と想像する。

料理をする、酒を用意する、新聞を買いに行く、その動きが、ペトラの物語とは異なる地点で展開されていたのではないか。なんなら舞台上でマレーネしか訪れない部屋があったのではないか。彼女のペトラへの想い、映画ではタイプライターの音やクロースアップで描かれていたものが、演劇では舞台から降りないというその実在において表現されていたのではないか。見てないから知らないが、そう想像した。
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