MasaichiYaguchi

オンリー・ゴッドのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

オンリー・ゴッド(2013年製作の映画)
3.0
本作はタイのバンコクを舞台に麻薬密輸をしているアメリカ人家族と、元警官で謎の男・チャンたちとの血で血を洗う報復劇を描いている。
ストーリーそのものはシンプルだが、作品に込められているメタファーは複雑で一筋縄ではいかない。
この映画を鑑賞しようと思う人は、恐らく主演のライアン・ゴズリングのファンか、「ドライヴ」を観てレフン監督のファンとなって興味を惹かれた人ではないかと思う。
主演は確かにジュリアン役のライアン・ゴズリングだが、本当の意味での「主役」はタイ人俳優ヴィタヤ・パンスリガム演じるチャンである。
ゴズリング演じるジュリアンは、赤と青のネオンの世界をまるで夢遊病者のように漂っている。
だからジュリアンは本作で一番掴み所の無い複雑なキャラクターで、女性に対する屈折した意識、特に母・ジュナに対してはコンプレックスを抱いている。
その彼のコンプレックスが作品に深い陰影を落とす。
このジュリアンと対照的なのがチャンであり、圧倒的な強さと存在感で作品を支配している。
この作品のシンボルカラーの一つ「赤」が象徴するように、大量の血が流される。
海外では、この映画で繰り広げられる過激な暴力描写に拒絶反応も出ているが、本作品テーマは「エロスとタナトス」だと思う。
この作品で描かれた激しいバイオレンスが、主人公たちの「悪」や「邪念」を一刀両断していく。
原題「Only God Forgives」や邦題「オンリー・ゴッド」における人々がひれ伏す❝絶対神❞に頭を垂れながらも、それでも敢えて抗う姿勢がレフン監督とオーバーラップする。