Shelby

ウォールフラワーのShelbyのネタバレレビュー・内容・結末

ウォールフラワー(2012年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます

スティーブン・チョボスキーが1999年に出版した自身の原作『ウォールフラワー』を自ら脚色し、監督した本作。原題は the perks of being a wallflower 壁際の花であることの特典、となっています。辞書でwallflowerを引くと、内気で人気もない、社会に上手く溶け込めないヤツ、ダンスパーティで相手にされないヤツ。というような意味。

小説的なアプローチと映画ならではの映像表現をバランス良く組み合わせて、ティーンエージャーなら誰もが感じる孤独感やもどかしさといった独特の体験を繊細に、でも重過ぎずに描いている映画であった。トンネルのシーンはオレンジの灯りに包まれて、自分がそこにいるかの様に、ダンス会場で独り壁際にいるチャーリーが自由に踊るサムとパトリックの元へ踏み出そうとするシーンでは、「行け!チャーリー!頑張れ!」と思わずこぶしを握ってしま う、キャラクターの心の動きが良く伝わってくる演技と演出で物語に引き込んでくれる。

題材が孤独、自殺、同性愛、薬物なので間違えると、救いようのない暗いお涙頂戴な映画になるところですが、要所要所に、コイツ本当にダメだなと笑えて、自分もそういうことあるなと自分の姿と重なって、その時の自分の感情が呼び起こされてその感情が登場人物の感情と重なって。そういう笑えるけど同時に深く心に刺さるという場面が沢山用意されていて、最近なら『世界にひとつのプレイブック』のような、心地良く痛い感じが上手く演出されていた。ところで原題の、壁際の花の 特典 って何だろうと思うのだが、お互いの痛みを理解し合えることもひとつかなと感じた。
チャーリーがパトリック達仲間に受け入れられた時にサムが「はみ出し者の島へようこそ」という言葉で歓迎。 その前には、チャーリーが抱えている痛みを自分から曝け出していた(ラリってましたが)。

そして受け入れられた後、彼らはお互いの傷を見せ合い、それに触ることで理解し合って、暗いトンネルのような青春を共に生き抜く力を得ていく。
作中で取り上げられる『アラバマ物語』でグレゴリー・ペック扮する弁護士のお父さんは、学校が嫌だと言う娘に言います「相手の靴をはいて歩いてごらん。そうすればもっと沢山の人を理解し、仲良くできるんだ」この映画も、はみ出し者の靴を履くように促してくれる。
そんなの壁の花じゃなきゃ痛みはないし、トンネルなんか通らずに大人になった方が得だろって人もいるかもしれませんが、誰しもが傷つくわけで、それを無視して、現実逃避して大人になった人は自分のことも他人のことも大事にできない人になってしまうだろう。 実際そういう人はたくさんいて、また、痛みに耐えきれなくて命を絶ってしまう人もいて、それをちゃんと受け止めて乗り越える人もいて、そういう若者の姿を描いた、特に痛みを抱える本人たちはどう生きればいいか、そして周りの人たちはどうすれば力になれるか、ということを教えてくれる映画だと感じた。

ウォールフラワーの宣伝文句では

「あの頃の自分と会える」

と謳われているが、まだそういう人達の靴をはいたことのない人にこそ観てほしい映画であった。
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