イルーナ

人魚伝説のイルーナのレビュー・感想・評価

人魚伝説(1984年製作の映画)
4.8
80年代の邦画でも屈指のカルト作。
中々観る機会に恵まれなかったのですが、U-NEXTにて配信されていると知りついに鑑賞。
……いや本当に、どうやって表現していいのかわからないくらい圧倒されました。熱量が桁違いすぎる……

ファンタジックなタイトルからは想像もつかないほどの、エログロ満載の壮絶な復讐劇。
血みどろ復讐劇と言うと『キル・ビル』あたりを連想するかもしれません。
が、あちらのポップさは一切なく、ドロドロした情念や狂気をこれでもかと煮詰めたかのような作風。
復讐以外にも、さびれた村、仏さまに焚く線香、切られた髪の焼香など、全編通して「死」のにおいが充満している。
そもそも海自体が生命の象徴とされる一方で、死の世界への入り口でもあるし。
夫の亡骸が静かに沈んでいくところとか、恐ろしさと哀しさが同居していて何とも言えません。

また、昭和という時代の空気がそのまま切り取られたかのような、あの生々しさ。
「女護ヶ島」の単語が出てきて「ん?」となったのですが、逃亡先のロケ地は渡鹿野島。
昔は有名な売春窟だった場所なのですね。しかもwikiで調べたら「最盛期は1970年代半ばから1990年まで」とあるから、ちょうどその時代に作られた作品だったというわけで。
それが当時を伝える貴重な資料になっているし、尚更異様さを引き立てる。

白都真理の一世一代の大熱演。
ケンカばかりでも仲睦まじい姿だったのが夫を殺されてから一転、魂が抜けたような虚ろな目つきに。
さらに真相に近づくにつれて表情にどんどん狂気や怨念がこもっていき、血にまみれた復讐の鬼へと変貌していく。
様々な不条理にもてあそばれた末に、ついにあらゆる負の感情が爆発する───!

その末に迎える圧巻のクライマックス!文字通り「無敵の人」と化して、もう殺す殺す殺す。
原発関係者はもちろん、たまたまその場に居合わせた人まで。目に映るすべての者が敵。
夫の殺害の裏には原発利権という複雑な問題が隠されていたのですが、そんなことはお構いなし。夫を奪ったすべてがただただ憎い。
白装束はたちまち返り血で真っ赤になっていき、自身もいくら無敵とはいえ体力を使い息も絶え絶えになっていく。それでもまだ殺す殺す殺す。
倫理も道徳も自身の限界も超越して裁きを下し続ける姿に、ただただ唖然。
遂には自然の猛威までも味方につけ、もはや人ならざる者と化した彼女は、深い深い海の中へ去っていく。
ラストシーンはまさに映画だからこそ可能な演出で、それまでの展開から想像もできないほど穏やかで抒情的な結末。
あれだけ血の、生臭い赤に染められていたのが、すべてを洗い流すかのような神秘的な碧の中へ……
そしてタイトルの意味もようやくここで理解できるようになる。
彼女は紛れもなく「人魚」だった。
イルーナ

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