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異常性愛記録 ハレンチのisopieのレビュー・感想・評価

異常性愛記録 ハレンチ(1969年製作の映画)
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2015年9月28日(月)新文芸坐 特集/戦後70年企画 第四部 戦後日本映画史の発見愛と官能のシネアスト

刺激路線、性愛路線と呼ばれていた石井のエログロ映画はこの映画のおかげで異常性愛路線の呼称になった。

やはり一連の路線の映画で唯一、石井ひとりで脚本を書いているのが肝だろう。自らの欲望に忠実に、変態性がむきだしになっている。その意味では石井の作品中、最も「作家の映画」となっている。
回想に次ぐ回想で時制が混沌としているのも、若杉英二ひとりにあらゆる変態行為を背負わせているのも、すべては物語の整合性よりも、ひたすら己の好む描写を盛り込みたいがゆえのイビツさ。その意味ではまぎれもなく石井輝男のプライヴェートフィルムといえる。
完全無欠のサイコパス演技はどこまで若杉英二のねらったものだったのか。若杉は自分がいま何を演じているのかわかっていなかったのではないか。そうでなければあの尋常ならざる演技は説明がつかない。あの演技こそ石井輝男の要求するままだったのではないか。

ピカチュウ・フラッシュのストロボに浮かび上がる若杉英二の弾けた顔がいい。そのあと、金髪レズ3Pの泡踊りを隣に眺めながら、拾ったゲイボーイたちとプレイに励む個室があるのは福原のトルコなのかホテルなのか。石井輝男にとってはそんなことはどうでもいいのだろう。

若杉英二の強烈な存在に対して、ふだんは女たちをひどい目に遭わせる小池朝雄、上田吉二郎、沢彰謙がふつうの人間として登場するのがおもしろい。石井がいつもフィーチャーしている東映京都の大部屋俳優・蓑和田良太はここでも薄い頭髪をサカナにしつこくイジられている。

若杉の旧い家の流しを這うなめくじ、なんの病気かわからない病床の妹・花柳幻舟、老母・金森あさのの枕もとのコップのなかで大写しになる入れ歯がブキミ。

橘ますみと小池朝雄が佇む九条あたりの歩道橋で「……日本万国博覧会……」と薄く街頭放送が。中島貞夫がインテリらしい問題意識で『にっぽん'69 セックス猟奇地帯』を放ったのと同時期、石井輝男もまた時代の混沌をこのひとらしいやりかたで切り取っていたのだろうか。
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