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ジュリエット・ビノシュ in ラヴァーズ・ダイアリーのakrutmのレビュー・感想・評価

4.0
ジュリエット・ビノシュ演じる Elle の女性記者アンが、娼婦として働く二人の女子大生の取材を通じて、彼女たちと自分の境遇を重ね合わせていくというストーリー。ジュリエット・ビノシュは、この映画でも大人の魅力を余すところなく発揮しています。私の好きなアナイス・ドゥムースティエも、娼婦という際どい役を好演しています。

この映画のあらすじでは、娼婦の取材を通じてアンが自分の中に潜む欲望に気が付き始めるという説明がよくされています。もちろんこういう側面もあるとは思いますが、私は少し違う解釈をしました。アンは、妻は夫や家族を支えるべきであるという視点でしか自分を見ない夫に不満を持っていて、そのため夫婦関係も冷めたものになっています。この視点は、ある意味で、性的な道具としてしか娼婦(や女性)を見ないという男性の視点と重なるものです。そういう意味で、アンと二人の女子大生は同じ境遇であり、そのことによってアンは二人の女子大生に共感していきます。最後のほうで、アンが夫の関係者と食事をしているときに、ふいに娼婦の客たちもその場にいて、みんなで『枯葉』という有名なシャンソンを歌うという空想をするシーンが出てきますが、これはまさにそのことを象徴的に表しています。その後に、アンが夫に対して娼婦的な行為をしようとするのも、そうすることによって、アンが暗に夫を冷笑していると見ることができます。

ストーリーはシンプルですが、このようなことをいろいろと考えさせる余韻を残してくれる、まさにヨーロッパ的な良質の映画です。
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