石

野獣死すべしの石のネタバレレビュー・内容・結末

野獣死すべし(1980年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

狂気か、はたまた夢か。

 戦場で捉えた写真は彼にとっての真実であり、地続きのトラウマです。法や尊厳が無い場所で、彼は生き抜く事、事象への興奮を覚えてしまいました。あまりの日常と化してしまったそれは、日本で消化することはできません。その上で彼は「輪廻を外れて神を超えた」と言います。守るべきルールを捨てた彼は最早欲求に支配された野獣。まごう事無き犯罪者です。

 なにより松田優作の諸々の演技が凄い。目が死んでるときと生き生きとしてるとき、正直どっちも怖いんですけど、一発で「こいつタガが外れてる」っていうのがわかるんですよ。また、小林麻美を射殺するときの死んだ目から少しだけ開いていく演技が、興味の対象を射殺してしまった罪悪感なのか人を殺したことへの興奮からくるものなのか、複雑な感情が読み取れます。
 動きも静かと言うより奇妙。急な機敏さや体勢の不格好さも相まって、異物感を醸し出してます。

 最終的に彼がどうなったかは抽象的な表現なためわかりません。クラシックを聴くように犯行に及んでいたのか、クラシックを聴いている間の夢だったのか、そもそも本当に犯行に及んでいたのかも謎です。加賀丈史が行為に及んでる後ろでひたすら横行な演技で独白を始める主人公は、現実と夢の隔たりを表してるのかなと。主人公の抱く衝動的な感情は誰しもが抱えているもの。それを実際行動に移すか否かがその人の倫理の線引きです。壊れてしまった彼に向けられたとても直球な言葉"野獣死すべし"。
石