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親密さのAZのレビュー・感想・評価

親密さ(2012年製作の映画)
4.8
ENBUゼミナールの映像俳優コースの卒業制作として製作されたもの。代表的なものだと、『カメラを止めるな!』がある。

4時間15分。
前半は約2時間、主軸となる2人の葛藤や、それぞれが持つ個人的な悩みや思いがぶつかりながら、舞台劇を作り上げていく過程、そして上演直前まで映し出される。

後半はほぼその舞台劇「親密さ」。その舞台劇は人が持つ弱さと小ささ、そして強さを表現した作品となっている。


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恋人同士でもある令子と良平は新作舞台の上演を間近に控えた演出家。コンビで演出をする彼らのやり方は、段々と限界に近づいているように見えるが、稽古を繰り返す間に2人の日常や想い、そして社会はゆっくりとだが、確実に変化していく。まるでほんのひと時、電車同士が並走して別れ去るまでの間のような、彼らの生活を描き出す。

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正直痛々しかった。見ていて苦しい気持ちになる。けれど、いつの間にかそれが心地よくなっていた。決して彼らの演技は上手くないし、とても若く青く目を背けたくなるような恥ずかしさもあった。ただ、距離感が良かった。その距離感がこの心地よさに繋がっているのかも。

この距離感とは、近いとか遠いとかそういう距離感ではなく、フィクションとノンフィクションの境目にあるもの。

特に後半の舞台劇「親密さ」の中で、詩の朗読会を見にいく妹やその友達、それを見ている観客、そして映画『親密さ』を見ていると私たちという多重構造。

その構造によりプロではない彼らの演技が、逆に生々しく、そしてその演技と彼らの背景にある現実(フィクション)、私が持っている現実の境がなくなっていき、まるでその映画の中に入り込んだような感覚になっていた。

細かい部分だと、詩の朗読会の感想を伝える場面で伝えた、暴力という詩に対しての否定的な意見。あのまま進んでいたら嘘臭さがあったと思うが、舞台劇の中に客観性が含まれたことで、一気に映画と舞台劇と現実との境が曖昧になったと思う。

濱口監督作品は『ハッピーアワー』と『寝ても覚めても』しか見た事なかったが、特に『ハッピーアワー』では鑑賞者を映画の中に巻き込もうとしているような印象を持っていた。それが『新密さ』で確信。

映画の中に入らせる。それぐらい人の感覚や想像を掻き立てる強いエネルギーが濱口監督作品にはある。

「言葉のダイアグラム」という詩が作られたように、この映画では対話が丁寧に作られていた。

個人的に好きなのは、海で溺れた時兄に助けられたという話。自分が死んでも助けてくれる人がいることを知ったという話を淡々と話す姿でちょっと涙腺が緩んだ。

この話は最終的に、この映画の世界で起こっている問題につながってくる。

世界で進む様々な出来事によって彼らの世界も影響を受ける。時には夢や希望を変化させる。良い影響もあれば、悪い影響もある。

少なからず、人の人生は直線的ではなく、様々な影響を受け徐々に別の方向に曲がっていく。

それがラストシーンで表現されていた。これは「言葉のダイアグラム」という詩の中で、メタファーとして表現されていたものだったが、まさか本当に現実で表現してしまうとは。

そして、その姿は決してネガティブなものではなかったのがすごくよかった。それぞれに愛を伝え合いながら離れていく。

男の人の変貌ぶりがすごく良かった。自分が求めていたものではない選択をしているのに、生き生きとしている。彼女は当時自分が追い求めていたことをやってはいるが、どこか寂しげで元気がない。

人生は本当に難しい。何があるかわからない。だからこそ生きる価値があると思う。

4時間があっという間だった。特に後半は体感1時間ぐらいにすら感じた。

まだまだ、書きたいことがたくさんあると思うがうまくまとまらない。映画『親密さ』だけでなく、舞台劇「親密さ」についても書きたい。

あとは、カメラワークやカットについて。特に舞台劇でのカットが独特でめっちゃ良かった。

それは、またの機会にしよう。
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