浄土

ゼロ・グラビティの浄土のレビュー・感想・評価

ゼロ・グラビティ(2013年製作の映画)
4.2
「金を貯めたら宇宙船を買ってこの宇宙を自由に駆けまわるんだ。宇宙船があればどこへだって行ける。本当の、本当の自由だ。(中略)だからオレはそれ以外のことはいっさいしないと決めた。それ以外のことを考えるのもやめようと思った。でも、でも愛し合うことだけがどうしてもやめられない」
―プラネテス第四巻:最終話より

90分間に手堅くまとめられた良作。広大な宇宙を舞台にしたソリッド・シチュエーション・サスペンスって、なんだか矛盾してるような感じがしないでもない。

宇宙空間×一人ぼっちとくれば、ヒンズー的に言うところのアートマンとブラフマンの関係性。思わず梵我一如の同一原理を見出して空間と調和しそうになるが、やはり人間たるもの生きる理由を見出して二本足で大地を踏みしめたいし、孤独なままじゃ生きてはいけない。作中でサンドラ・ブロック扮するストーン博士は娘のことをよく話していたけど、そこに父親のことは一切出てこなかった。じゃあこの物語は父親不在?というとそんなことはなく、それは誰が見ても分かる通りジョージ・クルーニーの素晴らしい助演によってちゃんと補完されていた。

冒頭でインド人機関士が出てきたり太陽に照らされるガンジス河に言及したり、これもまたインド要素の伏線?とか考えるのはちょっと深読みし過ぎか。宇宙という未だ謎だらけの空間に科学を携えて追求していく結果、元の木阿弥でメタ的で形而上な命題にぶつかってしまうのはもはや不可避。しかし信仰と科学は優劣の問題ではなくどうちらも同次元に存在するものであり、ソ連のソユーズにはクリストフォロスのカードが貼り付けてあり、中国の神舟には弥勒菩薩が鎮座ましましていた。そんな観念とエンタメがしっかり同居していて、マイケル・ベイやローランド・エメリッヒとはひと味もふた味も違う所以がちゃんとあったのでした。

なによりもIMAX 3Dで観て大正解。爆発シーンや大量のデブリそのものよりも、宇宙ステーション内部の奥行きや、宇宙服のヘルメットと腕の距離感や、小さく燃える炎や、浮遊する涙の粒に3D表現の本気を見た気がする。『フォレスト・ガンプ』でダン中尉の失った足をCGで消していて「映画史上最も有効なCGの使い方」とか言われていたのを思い出した(勿論『トランスフォーマー』や『ピラニア3D』みたいなド派手なCGも大好きだけど)。

しかし兎にも角にも宇宙恐い。ひたすら続く暗黒と方向転換不可な無重力遊泳。『愛と青春の旅立ち』で水中訓練中にパニックになってしまうシーンがあって「絶対スキューバダイビングとか無理だな…」なんて考えてたけど、宇宙空間なんかその比較にならない。まあ宇宙に行く予定ないからいいんだけど。
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