Eike

彼女はパートタイムトラベラーのEikeのレビュー・感想・評価

3.2
インディーズ系の小品ながら中々にかわいい作品。

シアトルの出版社でインターン中のダリウス(Aubrey Plaza)は幼い頃から周囲からはちょっと浮いた女の子。
成人した今も「居場所」を求めて鬱々とした毎日。
そんなある日、雑誌の追跡記事のネタとして片田舎のローカル紙に出た謎の個人広告「時間旅行のパートナー募集…ただし身の安全は保障できず」の掲載主を捜すことに。
同行するのは同じくインターンのインド系のPCオタクのアーノーとその地元に土地勘のある編集者のジェフ。

彼らは地元のショッピングセンターに勤めるケネス(Mark Duplass)という人物が広告主であることを突き止めます。
身分を隠してタイムトラベルの相方候補として彼に接近するダリウス。
どうにかケネスの信頼を勝ち得て時間旅行に備えた訓練が始まります。
同じ時間と目的を共有する二人の間には次第に奇妙な共感が芽生え始めます。
そんなある日ダリウス達以外にもケネスを追う謎の人物たちが現れて…。

如何にもインディーズっぽい作品ではありますが中々にキュートな映画。
コメディの形態を取っていますがけたたましさや押しつけがましさは無く、こじんまりとまとめられたヒューマン・コメディといったところ。
予告では何となく群像劇の雰囲気が濃厚だったのですが本編では主人公とヒロインにしっかりと焦点が定まっております。
しかし脇のキャラクター達のサブ・プロットにも気を配る辺り、インディーズらしさも伺えます。
下手すると散漫になり兼ねない所ですがそこは演技陣のコンビネーションで巧くまとめられており娯楽性もちゃんとキープされております。

公開当時の段階では出演者のほとんどはTVのコメディドラマ等で活躍する面々で日本ではほとんど馴染みがありませんでした。
しかし流石にアメリカの芸能界は底が厚く、彼等の演技にも安定感があってドラマとしての体裁はしっかりと整えられております。
90分足らずの小品ではありますが詰め込み過ぎず、逆に水増しして間延びすることもなく娯楽作としてちゃんと着地させている辺り、独りよがりになっていない点はエラい。

タイムトラベルというとても映画的なネタを持ち出してきている割にはあまり有効利用できていない気もするのですが、これはやはり本作の狙いがそこには無いからなのでしょう。
実際、本編ではダリウスとケネスの交流描写に何よりも重点が置かれており、SFというよりはロマンス映画の気配も強くなってまいります。
いたってシリアスに時間旅行のディテールを打ち明けてくるケネス(彼は一度成功していると主張)に付き合う内に彼に惹きつけられてゆくダリウスの心情の揺れ。
ケネスの言動は唯の酔狂なのか、或いはもっと深刻なストレスに因るものなのか...。
見極めがつかないまま出発の時が近づく中、彼の言葉の内容とは矛盾するある事実が発覚して…。
彼に惹かれ、いつしか彼に対して取材対象以上の感情を持ち始めていたダリウスですが、実は彼女にも時間旅行を信じたい理由があって…

物語のベースとなるのはちょっと周囲から浮いてしまっている孤独な男と女の物語。
しかしロマンスにしてもコメディにしてもなりふり構わずに観客の関心を買おうとするようなあざとさは感じられれません。
結果として、至って小粒で地味な印象の作品ではありますが人物描写がしっかりしているおかげもあってラストはケネスとダリウスを自然と応援したくなりました。

オーブリー・プラザ嬢、マーク・デュプラス氏の両者とも好演。
元々この両氏を念頭において脚本が書かれたものであったそうで納得です。
周囲を斜に見るダリウスのシニカルで複雑な感情表現にも説得力がありますがパラノイア気味でタフガイを気取ったケネスを演じるデュプラス氏がまた巧い。
ご両人ともに今や立派なベテラン演技陣になられました。
こういう地味でも力量のある役者さんたちがいつでも供給可能であるという意味ではアメリカのエンタメ界のすそ野の広さを改めて感じさせられました。
監督のColin Trevorrowは本作での評価を受けて、シリーズ再開となるジュラシックパークの第4弾の監督に大抜擢されたことはご存知の通り。
2022年、今年には監督に復帰して最終作となる第6弾(現時点では)も公開予定ですね。
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