ハルノヒノヨル

トランス・ワールドのハルノヒノヨルのネタバレレビュー・内容・結末

トランス・ワールド(2011年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

Twitter(X)でおすすめの映画として回ってきて観てみました。
おすすめしたくなるのもわかる、よくできたシナリオです。
この作品はネタバレを踏まずに観た方が絶対にいいので、未視聴の方はここから先のレビューは視聴後にお願いします。


登場人物の数は非常に少なく、セットも凝ったものではありません。
はじまりはボニー&クライドを彷彿とさせ、またレトロな小道具の数々やオープニングクレジットのフォントデザインがとてもいい。
公開時は2011年で今からもう10年以上前なんですが、レトロの流行もある現在に見たから余計にそう思うのかも。
ジョディのメイクもいい。
サマンサの登場で雰囲気が打って変わる。
荒れ果てた森を彷徨うクラシカルな装いのサマンサ。ジョディのフェーズとの落差が面白いと思った。
この作品の主人公は3人の男女ですが、全員の雰囲気がそれぞれふつうに出会ったら仲良くならないだろうなという感じ。
ああでもトムとサマンサはそれなりに重なるかな?
だから、現実社会において生息域の異なる3人が、突如巻き込まれた困難を協力して打破するのかな、と思いながら見ていた。
2023年のTBSドラマ「ペンディング・トレイン」みたいだと思った。
3人に共通するのは全員が車に乗っていたということ。
車と電車、どっちも乗り物だしきさらぎ駅みたいな森なんだろう。
この時点ではそんなにおすすめの理由はわからなかった。異世界転生の類型だからだ。
果たして読みは当たり、異界に迷い込んだ3人は生息域がぜんぜんちがった。
ただし、生きている時間ごとだ。
これはよくあるタイムパラドックスをテーマとしていた。
血の繋がりのある3人が、始まりとなったひとりの男を救う。ありがちだ。
ありがちなのだけれど、小道具ひとつ、会話ひとつとっても伏線となっており、それが立体パズルのように多重に組み合わさって物語の結末へと向かっている。
ありがちだからこそよくできている。短いけれど充足感がある。

トムは、自分の存在そのものがなくなることを理解した上で全力を尽くしていた。
彼が生まれること自体が不幸の結果である。重ねた悪行を死をもって償った、顔も知らぬ母の不幸を取り除くため、彼は走った。母を孕っている祖母を気遣い、彼の歩んだ人生は最悪のものであったろうと推察できるけれど、それでも彼をこの世に生んだ母たちにできる限りの力を尽くしたのだ。
どんな育ちであったのか、きっとろくなものじゃない。けれど人のために動ける彼の善性は生まれついてのものなのだ。
原題を「Enter Nowhere」と言う。
どこにもない場所へ入る、ということだが、存在ごと消滅するトムだけがひとり、そこへ行った。
それはあの暗いポーランドの森ではなく、この映画に映されることもない、我々の目には見えない場所なのだろう。
ハルノヒノヨル

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