浦切三語

かしこい狗は、吠えずに笑うの浦切三語のレビュー・感想・評価

4.1
『哀愁しんでれら』を近々観に行く予定なので、その前に監督のデビュー作を拝見しなくてはと思い鑑賞。

予告編を観た限りだと「青春映画っぽいなぁ」という漠然とした印象しかなかった。確かに前半部分はその通りで、学校社会からハブられた者同士がつるんでハッチャけてワイワイやってんだけど、なんか台詞の端々に不穏な空気を匂わせている。その匂わせが中盤以降トントンと加速度的に具体的なアクションと共に進んでいき本作一番の目玉であろう「いまエビ食ってんだよ!」の台詞が印象的な長回し食卓シーンへと至り、そして全てを知った気でいる観客の視点をスイッチングさせるラストへと至るという……振り返れば「サイコサスペンス」というジャンル映画として、まっとうに面白い、完成度の高い一作でした。自主制作映画ってことを知らずに鑑賞したんですが、自主制作にありがちな製作者のオ〇ニーになってないし「自主制作だから」を言い訳にした甘ったれ映像なんてどこにもない。観客の見たい映像を見たいタイミングで見たい長さで見せてくれるし、だからと言って全部を全部包み隠さず見せるのではなく、想像の余地をしっかりと残してくれる。というか演出のレベルが邦画にしては高いですよね……あの「いまエビ食ってんだよ!」のシーンで鍋を小道具としてではなく「効果音(つーかもうあれは劇伴)」として使うという、自主制作映画らしくない贅沢なやり方もそうですが、主役二人の物理的な位置関係にも拘ったショットも見事。ところどころに挟まれる警官のトボけた台詞など、サスペンスの中にユーモアがあって、それがちゃんと「ついクスリと笑ってしまう」という意味での「ユーモア」としてしっかり機能していて、そういうのも含めて「緊張と弛緩」が上手く作用している映画だなと思いました。

「〇〇ちゃんは私の親友なんだから取らないでよ!」という、小学校~中学校の友人関係にありがちな嫉妬であったり過剰な独占欲であったり「友人関係」という密なコミュケーションを形成していく中で当然芽生えてくる「驕り」や「油断」や「本音」といった生々しい感情の発散を「利益と恐怖」という喩えになぞらえて、とてもサスペンスフルに見せている。女の子同士の友情の形成~崩壊を描いた傑作に柚木麻子の小説『ナイルパーチの女子会』があるけど、なんだかアレを思い出してしまった。

個人的な好みの問題ですが、エンドロール後のカットは、私はなくてもいいと思うんですよね。アレが無くても肝要な部分は伝わりましたので。でもアレを入れたってことは、たぶん監督の観客へのサービス精神が出たんでしょう。そういうサービス精神が今後も良い方向で働くことを願っています。『哀愁しんでれら』が今から楽しみです。
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