Sari

トラブゾン狂騒曲 小さな村の大きなゴミ騒動のSariのレビュー・感想・評価

4.0
若き名匠ファティ・アキン監督による小さな村のゴミ処理施設を取材した、出色のドキュメンタリー。

トルコ移民として現在ドイツで生活する、アキン監督の祖父母の故郷であるトルコ北東部の黒海沿岸に位置するトラブゾン地域の村チャンブルヌが舞台。建設されたゴミ処理施設が住民にとって大きな問題となっていることを知り、2007年から5年かけて撮影した。

緑豊かな美しい村の一角に集まったゴミは、生ゴミ、動物の死骸、パソコンのキーボードに謎の液体が入った瓶など、不燃ゴミも混在した惨状が映し出される。腐敗したゴミから汚水が発生、ビニールシートで土壌汚染を防ごうとする。大雨が降った後は汚れた廃水が溢れ川が汚染される。ゴミに集まる500匹の野良犬、1000羽のカラス、野生の猪による被害の訴えが絶えない。ゴミが放つ悪臭の臭気対策に、香水シャワーを振りまくといった政府の場当たり的で呆れた対策が明らかとなる。トラブゾンは豊かな茶葉の産地で、茶摘みは主に女性が積極的に行ってきた村の風習だが、鳥の糞にも悩まされている現状。老人は思い入れがある村に居残り、未来ある若者はこの地を去るだろう選択肢を語る。

全体の構成と演出が素晴らしい。野外フェスで音楽に身を委ねる若者のシーンが印象に残る。映像のみの場面で、ベルリン出身ミュージシャン、アレクサンダー・ハッケの音楽が格好良い。

初公開から既に10年以上経っているがトラブゾンのゴミ問題はその後どうなったかを検索するも出てこない。決して他人事とは思えない現実に今も世界中のあらゆる場所で起こっている、社会の上下・対立構造が縮図的に現れたドキュメンタリーと言えよう。意図した鑑賞ではないが、濱口竜介『悪は存在しない』のリアルと言える。

『愛より強く』『そして、私たちは愛に帰る』『ソウル・キッチン』の三作で、ベルリン、カンヌ、ヴェネチアの三大映画祭を30代にして制覇した後に、反商業的と言えるこのドキュメンタリーを撮る監督の才能と真髄が垣間見れる作品とも言えるだろう。
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