くりふ

42〜世界を変えた男〜のくりふのレビュー・感想・評価

42〜世界を変えた男〜(2013年製作の映画)
3.5
【打たせぬ気なら盗んでやる】

これは劇場行けずレンタルしましたが、正直それで十分でした。

ちょっと『フィールド・オブ・ドリームス』に近しい匂い。これは、野球を神話にしておきたいアメリカ人のためのファンタジーなのでしょうか。

私はもっとリアルが見たかったんですけどね。こうも口当りよくまとめられると、もう黒人差別はなくなったような印象さえ受けてしまいます。


最後に、背番号42が永久欠番になったことが讃えられますが、そう決まったのは1997年になってからです。ジャッキーがメジャー・リーグで活躍したのは本作で描かれる1947年から10年ほどらしいので、40年後にやっと実現されたわけですね。なぜ本作は、そのことに触れないのでしょう?

ジャッキーが大きく評価され始めるのは、実際は80年代に入ってからで、これには有色人種への援助を緩くするため、「小さな政府」政策を行うレーガン政権が「耐えるジャッキー」を彼らのモデルとして持ち上げたことが大きいらしい。

そして、オバマ時代にこういう甘いトーンの映画が出てきたのは、実際は差別の実態を隠してしまうというカラー・ブラインド戦略が影響しているのでしょうか? 逆に、そういうことがダイレクトに反映してしまうのがアメリカ映画の面白いところだとも思うのですが。

他、ドジャースのレオ監督が、ある事情でカトリック団体の圧力を受け、厳しい懲罰を受ける場面が気になったのですが、レオ監督の自伝によると実際は映画と違い、球界と接点のあったギャングとの交流が原因のようです。

ここ、GMのリッキーが神の名を使い圧力をかけるシーンと対比されていて面白かったのですが、史実をこう変えるところにも、本作における神話化したい欲、を感じますね。

あと、野球映画としての興奮があまりないのは肩透かし。

試合が盛り上がるか、と思えばぶつ切りになる。また、ジャッキーはメジャーの試合に立つと、スランプとなり結果を出せない時期が続く、ということが彼の自伝に書かれていましたが、その辺すっ飛ばしてますね本作。そもそも2時間超す尺なのだからもっと試合をじっくり見せて欲しかった。

その他も幾つか気になりましたが、とりあえずそれらを脇に置いておけば、ジャッキーの耐える勇気と、次第に感化される白人選手たちには紋切型描写でも共感したし、ジャッキー・ロビンソン紹介篇としては良くできていると思いました。

勇気の他にも闘魂、したたかさが出ているところもいいですね。バッターボックスでは疎外されても、盗塁で白人の間を走り抜ける様は痛快でした。

ハリソン・フォードがいいですね! 彼の演技で初めて感心したかも。リッキー本人に似せたゲジ眉メイクが、ときどき淀川さんに見えました(笑)。

あと、前田あっちゃん似の奥さん役ニコールさんが巧い。ユーモアを忘れぬ気丈さ。内助の功、ってこういうことだなあ、とちょっとだけ惚れました(笑)。

<2014.6.30記>
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