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水のないプールのTnTのネタバレレビュー・内容・結末

水のないプール(1982年製作の映画)
3.4

このレビューはネタバレを含みます

 切符切りのカチカチという音と共に打ち出される「水のないプール」というタイトル文字、このスタイリッシュさ。また題材が実際に起きた事件を元にしているという過激さ。前半はその緊張感といいヤバイもの見てしまった感がすごかった。ただ後半への失速と、やはりロマンポルノの枠内で収まった感、ちょっと期待値が高かっただけに残念だった。でも、1980年代臭さをビシバシ感じた。

 にしても、この時代はなんでロマンポルノに内田裕也がよく出ていたのかわからない。本人の経歴の突飛さや何をしでかすかわからない感を醸した役が多いのだろうが、演技は別に上手じゃないし。ただ、今作品ではかなり変態的な主人公にはまっていたように思える。無表情でトカゲの様にじっとしていて一般人だと思いきや、クロロホルムで部屋の女性を麻酔させて犯すとかいうとんでもないこともする。しかも、それの埋め合わせかのように朝食を用意するというサイコパスさ。内田裕也自身の普通さ、いやむしろひ弱さと、ロックンローラーとしての一面というこの二面性が上手に当てはまっていた。それでもやっぱり、服脱ぐとだらしない体だし、走る姿は弱々しくて笑ってしまう。

 若松孝二の経歴から、なんとなく体制への批判というか反抗心が伺えた。日本映画のある流れには、太陽族あたりから無軌道な若者たちを社会への抵抗力として描き、その後その抵抗力を持つ者はアメリカンニューシネマなどの影響も受けて犯罪者が代弁するようになっていく、と勝手に解釈している。大島渚も好んだ題材だろう。だから、冒頭でだんだんと追い詰められる主人公にそうした犯罪による反抗を期待した。「タクシードライバー」ならぬ切符切りの反抗を(カフェでの女性との会話や、映画館という場、仕事での鬱屈、頭を丸めるなど「タクシードライバー」要素が随所に見られる)。あらゆる抑圧と自身の理性で性的な場面からもダッシュで逃げるシーンも、彼のギリギリ具合が伺える演出だったと思う。そしてついに犯罪を犯すシーンになった時の、ジリジリと迫っていく恐怖と高揚はかなり危険なニオイがした。上映時の音なのかわからないが、ずっと薄っすらジーっというモーター音が流れているのが、主人公の仄暗い欲望を刺激しているようで怖くてよかった。またガンガンにライトを当てた女性の体の立体感が生々しい。

 ただ、先に述べたように後半はただのロマンポルノでしかなくなる。だんだんその犯罪性も薄くなり、ポルノ幻想でしかなくなる(ロマンポルノと銘打っているからには仕方ないが)。ラストで被害者女性が告訴を取り下げたとき、いやいやそれはあんまりにも男の都合が良すぎだろと思ってしまった。それでも、最後の最後に水のないプールで大の字で寝転がる下手な舌出しをする内田裕也で幕は閉まり、一応は反抗の体裁で終わる。水のないプールの意味性もちょっと薄いというか、画としてはかなり強いのだが。結局最初に出会った女性二人との関係も放置されたまま、色々中途半端だった。

 あと妙に役者陣が珍しい顔ぶれである。タモリや赤塚不二夫、沢田研二、安岡力也、そして殿山泰司がいた。中でも原田芳雄の存在感はやはり強い。また大野克夫によるドリーミーなシンセ音楽がなかなかに耳に残る。
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