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エヴァの告白のくりふのレビュー・感想・評価

エヴァの告白(2013年製作の映画)
4.0
【エリス島をぬけるとそこは盗賊の巣だった】

前作『トゥー・ラバーズ』がとてもよかったので、ジェームズ・グレイ監督作という安心信頼印に惹かれて、みました。

今回も紋切型大全集みたいな作りですが、安定演技と適切描写でとにかく飽きない。が、この作りだと跳ばし方は難しいのかな?暴走する三角関係の行く末が紋切型の極致で、そこからが随分さめてしまった。

今回は女性の主人公というのが妙味で、それに応えたマリオンさんがしなやかにお見事。監督が、表情豊かで台詞不要と彼女を評していますが、同感です。

が、お肌の見せ方がね…(笑)。体は売っても心は売らぬという役だからわかりますが、冒頭なども踊り子さんたちの大らか入浴シーンが良かったから、彼女も混じってほしかったのに…(涙)。まあ、「バナナ知らず」の描写含め、独り心の異邦人であることを強調しているのでしょうけれど。

ユダヤという自身の出自に拘る監督ですが、今回それは背景に抑え、ロウワーイーストのユダヤ・コミュニティの中で浮くカトリック女、という構造でカラーを出していますね。

だから罪悪感が人物像のポイントになりますが、私はカトリックの告白システムにはまるで共感しないし、そこからはピンと来なかった。「不自由の女神」となりながらも、結局は自力で生き抜く女の逞しさ、というところで共感しましたね。

ネーミングの遊びは面白い。マリオン演じるエヴァの名は直球でしょうが、綴りがEwaで、ポーランド語で「人生」の意味だそうです。妹のMagdaはドイツ語読みでマグダラのマリアから取られたようですね。

で、エヴァの就職先(笑)の店名が「盗賊の巣」というので状況的に巧い!と感心したんですが、後で調べたらルカの福音書にエルサレムが盗賊の巣になってしまった…という一節があるようで、ここもたぶん、含みを持たせているのでしょう。

しかしマリオンさんに感心したものの、より役者魂を見せつけたのはやっぱりホアキンだと思います。「やさしい女衒」という矛盾を的確に演じ切り、心の崩壊が表出したようなグズグズの顔で叫ぶ件など、思わずおひねり投げたくなりました(笑)。前作もそうでしたが、監督との信頼関係がきちんと出来上がっているのでしょうね。

映像設計は今回もよく練られていますね。エヴァにとっては地獄巡りな日々となるのに、映像は蜂蜜色でどこか暖かいという矛盾。多様な面を持つ本作の登場人物が動き回る舞台に相応しい。

そしてようやくエヴァに光が見えて来ると、今度は画が青く寂しくなる不思議。う~ん、Ewaですねえ(笑)。

ファーストとラストカットは対置されていると思いましたが、最後の「人生のスプリット」を否応なしに思わせる分割表現は、ちょっと鼻につくけどお見事で、終盤の失速をすっかり忘れてしまいました。

重量級ではないものの、機会あればもう一度みたい作品となりました。また違った面が見えて、違った感想が出てきそうです。

しかしエリス島でロケしたのは本作が初めてだそうで、ちょっと驚きましたねー。

この監督には今後も「地に足のついたアメリカ」を描き続けてほしい。こんなアメリカ映画だったら、私は歓迎します。

<2014.2.17記>
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