MasaichiYaguchi

キャプテン・フィリップスのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

キャプテン・フィリップス(2013年製作の映画)
3.8
この作品は2009年にソマリア沖で発生した海賊襲撃事件を描いている。
この映画の冒頭の方で印象的な所があり、それはソマリアでの航海の為に空港へ向かうフィリップス夫妻が車中で「今の世の中はサバイバル社会だから、勝ち残っていかなければならない」という会話を交わしているシーン。
不況、就職難、貧困層と問題を抱えるアメリカだが、それでもアメリカは世界の中で「勝ち組」だと思う。
この世界的な「格差社会」が本作に深い影を落としている。
アフリカ難民への援助物資を積んでソマリア沖を航行するフィリップス船長の貨物船にソマリア人の海賊たちが襲い掛かる。
操船や一斉放水で海賊たちの乗り込みを阻止しようとしても、非武装の貨物船では武装した海賊たちに一溜りもない。
それでもフィリップス船長は彼らの船を乗っ取られまいと、あらゆる手段を講じていくが…
映画の後半からは、乗組員たちの代わりに人質となったフィリップスと海賊たち、そして彼を救助しようとするアメリカ海軍との息詰まる攻防戦が繰り広げられる。
アフリカ難民への援助物資を届ける貨物船を、そのアフリカ大陸の住民たちが襲撃するという皮肉。
ポール・グリーングラス監督は一方的に彼ら海賊たちを「悪者」にしない。
元は漁師だった彼らがどうして海賊にならざる得なかったのかという背景をきちんと描いている。
だから同じ海で働くフィリップスの葛藤は深い。
彼は死への恐怖に怯えながらも、悪である海賊たちへ同じ海の男として何とかしたいという思いがスクリーンから伝わってくる。
その思いがどうなったのかは、全てが「解決」した時の何とも言えない彼の表情が物語っている。
この映画は単なる「勧善懲悪物」ではなく、現代のサバイバル社会が抱えた問題をソマリアの海を舞台に鮮やかに切り取っていると思う。