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オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴのpicaruのレビュー・感想・評価

5.0
『Only Lovers Left Alive』

大大大好きなジム・ジャームッシュの映画。
吸血鬼の恋人たちの日常を描いたストーリー。

本編開始直後。
異世界だ、と思った。
ヴァンパイアの世界ではない。
ジム・ジャームッシュ・ワールドだ。
ジャームッシュはいとも簡単に私をあの世界へ、あの独特のリズムと軽快なタッチで描かれた世界へ攫っていってしまったのだ。

美しい、と思った。
吸血鬼のアダム役のトム・ヒドルストン。
彼の恋人・イヴ役のティルダ・スウィントン。
世界で最も美しい人はアントン・イェルチンだと思っていたが、よりによって彼がメインキャストとして出演している映画で、ビジュアルが劣ることなく、それどころかお互いに称え合うような輝きを放つ人たちが現れるとは……!!
悪神のような黒に染まったアダム。
女神のような白に包まれたイヴ。
それぞれの生き様を貫いているのに、儚げで。
何百年も生きている吸血鬼なのに、ずっと死の世界を背負っているようで。
闇に堕ちた瞳こそ眩しく、吸い込まれそうな、吸い込まれることを求めてしまいそうな美しさだった。
トム・ヒドルストン、ティルダ・スウィントン、アントン・イェルチン。
魅惑的な三者が揃った映像は、片目で観ても目が麻痺してしまうのではと疑うほど、強力な光だった。

好きの結晶だ、と思った。
ミュージック。ダンス。アート。
本編に散りばめられた芸術の粒子たちが、完全な結晶格子となり、この形でしか存在し得ないのだ、と訴えかけてくる。
彼らの切実性が目に飛び込んでくる、その光の反射が尊い、だからこそ願う、永遠であれ。

生きている、と思った。
かけがえのない映画を観た後はぐったりしてしまう。
集中力も感受性も限界まで使い切った。
枯渇した体に染み渡るのはただひとつ、純粋な血液だ。
吸血鬼と夜の世界を彷徨いながら、赤血球レベルで愛してしまうよ。
生きている、生きている、今、映画に生かされている。
なんという皮肉かな。
危うさだけを武器にした私に生気をくれたのは、死期の迫ったヴァンパイアだった。

原点だ、と思った。
文学、科学、哲学、天文学、ありとあらゆる学術を飛び交った吸血鬼。
自滅的なロマンチストのろくでなし。
歴史に振り回されてきた者は、宇宙を夢見る。
どこが生命のはじまりだろう。
どこが我々のおわりだろう。
どこが物語の頂点だろう。
こここそジャームッシュの原点だろう。
気付いたら目が潤んでいた。
いつまでも朽ちることない残像は、牙を煌めかせたアダムとイヴだった。
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