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クリムゾン・ピークのpicaruのレビュー・感想・評価

クリムゾン・ピーク(2015年製作の映画)
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🎬『クリムゾン・ピーク』

再生後、画面いっぱいに放たれる映像美。
これぞ、デル・トロ・ワールド。
ダークなブルーグリーンのお屋敷は不吉な予感をもたらし、シャープ兄弟が企む計画の残酷さを際立たせます。(『シェイプ・オブ・ウォーター』でも多用されていたミステリアスな色彩ですね。)
そして、寒色の世界で鍵となるのは赤いアイテム。
赤粘土、赤い指輪、赤いバラのコサージュ、ティーカップの赤い模様、血液……
バスルームで赤いお湯が流れ出た時なんか、ホラー映画ファンとしてときめきました(笑)
ついでに、バスタブから真っ赤なゴーストが登場するシーンは『シャイニング』のオマージュを思わせます。

いよいよクライマックスの屋外でのシーン。
真っ白な雪景色に赤粘土が露出しているのですが、そこで奮闘するヒロインの白いドレスには飛び跳ねた血液が染み付いています。
景色をそっくりそのままひとつの衣装に反映させているのです。
白と深紅のコントラスト。
THIS!! IS!! ART!!
と叫びたくなるほど圧倒されました。

デル・トロおじちゃんはトム・ヒドルストンがどうやったら映えるか、完璧に分かっていらっしゃる。
役柄だけでなく、ファッションや背景の美術までこだわりを感じます。

だけど、映画の本質はそこではない。
『クリムゾン・ピーク』は幽霊を信じる、身寄りのないたった一人の変わり者に捧げられています。
鑑賞中、デル・トロ監督のある授賞式でのスピーチを思い出しました。
自分はこのスピーチに感銘を受け、全文写経してしまったくらいなのですが、中でも印象的だった言葉が
“We all have stories to tell. (誰もが語るべき物語をもっている。)”
です。
主人公のイーディスは作家を夢見ています。
しかし、「女性であること(舞台となる時代では特に)」と「作品のモチーフが(恋愛モノではなく)幽霊であること」という2つの障壁が彼女の前に立ちはだかります。
物語にリアリティがあるかどうかや小説の完成度は正直どうでもよく、映画が主張するメッセージには影響を与えません。
なぜなら、彼女にとってゴーストの存在は真実だから。
監督は風変わりな物語を愛する、そして、その物語を形にすることに生きがいを感じるような、弱い立場の人々に寄り添いたかったのではないでしょうか。
冒頭でイーディスの原稿を映し、完成された書籍で幕を閉じることからもそれは明らかです。
20世紀初頭、イーディスのような人が個性的な物語を出版することが難しかった時代を描き上げることで、映画という形で彼らの夢を叶えてあげた、とも読み取れます。

……というのが、自分の解釈です。
素晴らしいゴシックホラーをご紹介くださった映画ファンの方に感謝!!

《おまけ》
映画は紅茶を飲みながら鑑賞しました。
2時間無事に観終えたので、毒は入っていなかったようです👻
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