ノラ

スティーヴン・セガール 沈黙の鎮魂歌のノラのレビュー・感想・評価

4.1
今回のセガールは小説家という異色の設定なのですが、元ロシアン・マフィアということで、ひたすら暴れまわるいつものセガールでした。やはりセガールは、指でキーボードを打っている姿よりも、拳で人の顔面を打っている姿のほうが自然体に見えます。

そんな元マフィアのセガールは、元妻を殺され、娘に重症を負わされたということで、今回はいつも以上に荒ぶっています。武器商人を全員殺害して銃器を調達したかと思えば、質屋では店主に鉄拳をお見舞いして商品の指輪を奪っていくなど、強盗まがいというよりも強盗そのものでしかないです。また、敵への宣戦布告として、団地で白昼堂々ライフルを上空に向けてぶっ放すなど、周囲の一般人をドン引きさせる行為も平然と行います。とにかく立ちはだかる敵をバンバン殺していき、訪れる店をバンバン破壊していきます。

そして終盤では、病院すらも戦場に変えてしまうセガールが鬼神のごとく院内で暴れまわります。人を癒やすための施設である病院で次々とセガールが人を死に追いやっていく光景は一周回って新鮮で、その場にある工具を集めて、ささっと手製爆弾を作り出してしまうあたりは、もはや純粋に殺しを楽しんでいるとしか思えません。

そしてラストバトルでは、迂闊にもセガールが相手にマウントを取られて殴られてしまうという不覚を取ります。しかしセガールはすぐに形勢逆転し、相手が持つ拳銃を奪い取ったうえで「俺が銃の正しい使い方を教えてやる」と言わんばかりの斬新な殺し方でフィニッシュを飾ってくれます。このラストは必見です。


このように血みどろの印象しか残らない今作ですが、意外にも人間ドラマの方もしっかりと作り込まれています。今作のドラマ面を主に支えることになるのが青年のステファンで、彼はロシアン・マフィアボスのミカエルの息子でありながらも、セガールの娘レニーの婚約者でもありました。

そんなステファンは、婚約者であるレニーが何者かに襲撃されたことで、「愛するものが殺されたときは復讐するのが当然だ」と主張するセガールに連れられて、地獄めぐりのお供をさせられることになります。

セガールと共に繰り広げる復讐劇のなかでステファンは衝動的に敵を射殺してしまうのですが、その行為に対してセガールは激怒します。元マフィアのセガールは『人を殺すこと』の重みを誰よりも知っています。人を殺めた人間はその後の人生でずっと苦しみを背負い続けることになることを、セガールは店の個室でストリップ嬢を堪能しながらステファンに切々と説きます。

しかしその後もステファンは銃で敵を殺そうとするのですが、そのたびにセガールは彼に銃を下げさせます。セガールとしては、いずれは自分の娘婿となるステファンには自身と同じ道を歩んでほしくないという思いがあるのでしょう。一方でステファンの実父であるミカエルは、自分と同じ道を息子ステファンにも歩ませようとします。

そんな二人の父の間で葛藤するステファンが最終的にはどのような道を歩んでいくのか。そのへんが個人的には今作の一番の見どころでした。長々と書いてしまいましたが、最後まで読んでくれた方ありがとうございました。
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