つかれぐま

ラストエンペラーのつかれぐまのレビュー・感想・評価

ラストエンペラー(1987年製作の映画)
5.0
@新宿ピカデリー❸4K上映
劇場公開版4Kレストア163min

ほぼ全編が英語だが、その違和感はすぐに消える。演出、脚本、 撮影、美術、そして音楽の総合力で完璧に中国の動乱期を再現する「映画の凄さ」の前に人種や言語の違いなど問題なくなる、これぞ映画。

監督のベルトルッチはイタリア人だが、表情の変化が少ないアジア系俳優に要求した微妙な演技がどれも素晴らしい。我々日本人がみてもそこに違和感はない。そして映される「漢字」が実に美しい。表音文字の欧米人が、表意文字である漢字を美しく撮ってくれたことが嬉しいね。

ベルトルッチの生まれた頃(in1941)のイタリアはファシズムの時代。この映画も、西大后から毛沢東まで(独裁者には変わりなし)、その間に恥ずべき大日本帝国が挟まるのだから、もうファシズムがテーマと言っていい。そしてベルトルッチはファシズムの怖さだけでなく、その「美しさ」すら撮ってしまう。これは凄い監督だ。

溥儀の戴冠式に始まり、広大な紫禁城、日本軍人の凛とした佇まい、紅衛兵の一糸乱れぬ動き。ファシズムという悪魔に内在する美を、見逃さず、隠さない。その美しさに観客は抗えない。映画の恐ろしさがここにある。

坂本龍一の音楽が作品の深みに大きく貢献していることは言うまでもないが、彼が演じた甘粕大尉のオーラも凄かった。撮り方が上手いせいもあるが、甘粕がスクリーン上にいる時の緊張感。外国人監督がこんなに美しく日本人を撮った作品を私は知らない。台詞が極めて少ないのも逆に効果的(彼は俳優ではないのでこれが正解だろう)RIP。

多くのアカデミー賞を獲得した本作だが、ジョン・ローン(溥儀)が主演男優賞にノミネートすらされなかったのはおかしい(アジア系ゆえの過小評価?)。それほどの名演技だが、結局本作が彼のピークでその後のキャリアは下降線を辿ったのが、今観ると作中の溥儀と重なって思える。

そしてあの映画史に残るラストシーン。
翻弄された溥儀の運命、ファシズムという時代を経て、最後にあのシーンで浮上する真のテーマ。結局人は変われるのか?変われないのか?それは分からないが、生れ変る(メタモルフォーゼ)ことはできるのだ、と。それを壮大なスケールの伏線回収で見せるラストにはもう脱帽しかない。長尺の鑑賞が報われる僥倖。

こんな素晴らしい映画体験を12.8mの大スクリーン&4K上映で観れたことに感謝だ。中はガラガラだったのが本当に残念。同時刻にワイスピが始まったのだが、狭い箱に押し込められたワイスピな皆さん、申し訳ない。